イギリスを統計から見るシリーズ。
今回は、イギリスでの最低賃金はどれくらいなのか、イギリス政府の発表した報告書「20年間の最低賃金(2019年最新版)」を中心資料として、最低賃金のここ20年間の推移を取り上げる。
元資料:20 years of the National Minimum Wage
イギリスの最低賃金とは
ちなみに、イギリスの2019年の最低賃金は25歳以上で8.21ポンド/時間。25歳までは年齢によって額が異なる。詳しくはこちらの記事をどうぞ。
イギリスの最低賃金制度は1999年に導入された。日本は1959年だから、40年も遅い。イギリスでは、日本のように地域ごとではなく国中一括で同じ金額である。
導入当時、OECD(ヨーロッパ諸国、アメリカ、日本、韓国など35カ国で成る経済協力開発機構)加盟国の最低賃金ランキングでは、イギリスは真ん中だったが、その後の最低賃金上昇率は同じくらいのランクの国のほとんどを抜かすほど著しいものだった。
過去20年、上昇し続けてきたイギリスの最低賃金
イギリスの最低賃金は16〜25歳までの年齢でいくつか区分けがある(25歳以上が一番高い)のだが、25歳以上の最低賃金は2016年に導入されたばかりのもので、それまでは21〜22歳以上が成人最低賃金の区分けとして一番高いものになっていた。
英新聞のガーディアンと政府のサイトに詳細な数字が乗っていたので、それを基にシンプルなグラフを作成した(時給、単位はポンド)。
青色のグラフは、1999〜2010年が22歳以降の人、2010年以降からそれに21歳も加えられた区分けとなる。25歳以降の最低賃金は、2016年、時給7ポンド超えからスタートした。
20年前に時給3.6ポンドからスタートした最低賃金は、現在2倍以上になっている。2009年のリーマンショックの後ですら最低賃金を上げているのはすごい。
しかし、1999年の3.6ポンドという金額を見ると、個人的には「そもそも元が低すぎたのでは?」とも思う……。物価との関係もあるから一概には言えないかもしれないが。そして現在でも、ロンドンで生活していたら最低賃金では暮らしは結構苦しくなると思う。
2019年現在、25歳以上の人が最低賃金(2019年で8.21ポンド)で1日8時間、週に5日フルタイムで働いた場合、収入は週328.4ポンドとなる。普通の雇用形態の場合、イギリスの収入の下限はこの程度といえよう。
しかし、最低賃金が年々上がっていても、国としての平均収入はここ10年右肩上がりではなかったことがわかった。
実は平均収入はリーマンショック前の水準に戻っていない
さまざまなデータ分析を行い公表する福祉団体「Full Fact」のデータによると、イギリスの実際の平均収入の推移は以下のようになっている。
- リーマンショック前(2007〜8年)の平均収入は週520ポンドより少し上〜560ポンドより少し下の間で前後していた。
- リーマンショックのあった2009年から2014年半ばまで下落の一途をたどった。
- 2014年中頃から2016年までの間に平均収入は徐々に上がり週520ポンド前後となったが、リーマンショック前の水準には戻っていない。
- その後も2018年まで平均収入は横ばいで週520ポンド前後。
グラフはこちらのページから見られる。
How have wages changed over the past decade?
平均収入は上がり続けていない
このようなことが起きている一因は、高所得者が働くのを止めたこと、または高所得な職業や仕事が減ったことが考えられると元の記事にはあった。
もしかしたら、最低賃金が上がったことで、従業員の働く時間を減らした雇用主が増えているかもしれないし(私の憶測)、業界全体で給料の水準が下がったところもあるのかもしれない(憶測)。日本でも問題になっているように、残業代未払いや不適切な長時間労働の末、時給に直したら最低賃金以下の金額で働いている人がイギリスにも多くいるのかもしれない(憶測)。
数年前のデータになるが、イギリス人の収入と労働時間についても調べてみたことがある。詳細はこちらから。
未だに、EU離脱の影響で経済がどうなるのか不透明なイギリス。人々の生活に直結する最低賃金と収入がどのような状況になるのか気になるところだ。
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