イギリスを統計から見るシリーズ。
今回は重いテーマ。イギリスの自殺に関する状況について、イギリス国家統計局による「Suicides in the UK: 2018 registrations(2019年発表、当記事執筆当時の最新資料)」から、年代・性別ごとの自殺率や、自殺方法などを見ていく。また、日本との比較も簡単にしていく。自殺の理由についても、最後に少し触れている。
目次
概要
2018年にイギリスで自殺した人は6,507人。年齢調整自殺率は100万人あたり11.2人となる。この数字は2013年以降で初の増加となり、前年の2017年より大幅に増えた。
2018年の自殺者のうち3/4が男性で、この傾向は1990年代半ばから変わっていない。同年の性別ごとの自殺率は男性が10万人あたり17.2人、女性が10万人あたり5.4人。男性は前年より大幅に増加しており、女性は過去10年横ばいである。
45~49歳の男性が最も高い自殺率(10万人あたり27.1人)であった。女性でも最も自殺率が高いのは同年代の45~49歳(10万人あたり9.2人)であった。
25歳以下の自殺率は全体的に低いが、近年増加傾向にある。特に10~24歳の女性自殺者が2012年以降大幅に増加しており、2018年には最も高い10万人あたり3.3人となった。
自殺方法として最も多いのは首吊りで、男性自殺者のうち59.4%、女性自殺者のうち45.0%を占める。
- ※自殺の理由に関しては、この統計資料ではなく違う記事の考察をベースに、当記事の最後に記載した。
イギリスの自殺者数と自殺率
2018年にイギリスで自殺した人は6,507人。前年の5,821人から11.8%増加した。また年齢調整自殺率も10万人あたり11.2人と、前年の10.1人から大幅に増加した。2013年以降初の大幅な増加だが、自殺率は年によって変動するので、この増加が今後も続く傾向かどうか判断するのは時期尚早という。
日本との比較
日本政府による2018年の自殺者統計によると、男女・全年齢を合わせた全体の自殺者数は20,840人。イギリスの6,507人と比べると3倍以上に上る(総人口は、日本はイギリスの2倍くらいある)。
全人口に対する自殺率を見てみると、日本は10万人あたり16.5人で、イギリスは10万人あたり11.2人なので、やはり日本の方が随分と高いようだ。
男性の自殺率は2018年に大幅に増加
自殺者6,507人のうち、男性は4,903人、女性は1,604人で、男性が3/4を占める。2018年の自殺者増加は主に男性の自殺者が増えたことによる。男性の自殺率は10万人あたり17.2人で、前年の15.5人から大幅な増加を見せている。
黄色が男性で紺色が女性、青色は全体の自殺率。横軸は10万人当たりの死亡者数である。
統計が開始された1981年から見ていくと、一貫して男性の方が女性より自殺率が大幅に高い。
これまで、自殺率は男女ともに全体的に減少傾向を見せてきた。男性は2013年に一度大幅に増加し、前述したように2018年にも増加したが、それでも最も高い1988年よりずっと低くなっている。女性の自殺率は過去10年比較的横ばいであり、男性より高低差は少ない。
日本との比較
前述した同資料では、日本の1978年からの自殺率推移が記録されている。それによると、男性の自殺率が女性より高くあり続けているのは同じで、男性自殺率は2003年にピークを迎えてから2018年まで、大幅に減少している。
一方、女性の自殺率は過去30年にわたって男性ほど大きな上下はないようだ。
年代による自殺率の傾向
黄色が男性で紺色が女性、青色は全体の自殺率。横軸は10万人当たりの死亡者数である。
1980年代から、自殺率は45~49歳でピークに達するまで年齢とともに増え、その後80~84歳までは減少、85歳以上になると率はまた増加し始める傾向にある。上記の2018年のデータでは、75歳以上から男女ともに増加に転換している。
2018年も、45~49歳のグループは男女ともに最も自殺率が高く、男性は10万人あたり27.1人、女性は10万人あたり9.2人となった。
最高齢のグループになるにつれ自殺率が上がる傾向は、男女ともに世界中で見られる現象だといい、精神疾患や身体機能の衰え、社会的な要因など多くの理由があるという。
日本との比較
前述した同資料では、男女別かつ年代別の統計がないので男女合計の数値しか見られないが、日本でも50代までにだんだんと死亡率が上がっていき、50~59歳が自殺率が最も高くなる年代となる。
その後、60~69歳ではいったん下がり、70歳以降になるとまた増加傾向となる。
自殺の方法
青が男性で黄色が女性。
自殺方法は上から以下のようになる。
- 首吊り、絞首、窒息
- 中毒
- 乗り物への飛び出し
- 溺死
- 飛び降り
- 鋭利な用具の使用
- その他
男女ともに最も多い自殺方法は首吊りで、男性自殺者のうち59.4%、女性自殺者のうち45.0%を占める。次に多い手段は中毒によるもので、男性17.9%、女性36.2%であった。
日本との比較
日本の人口動態調査で出ている統計によると、2018年に日本で一番多い自殺手段は首吊りであった。続いて、飛び降り、ガス及び蒸気による中毒、乗り物への飛び出し、溺死と続く。日本では飛び降りが2番目に多い手段とされており、イギリスに比べて随分割合が高いことがわかる。
男女別の自殺手段の推移
青色が首吊り、オレンジが中毒、黄緑がその他、赤が乗り物への飛び出し、水色が飛び降り、グレーが鋭利な用具の使用、黄色が溺死。
男性自殺者における自殺方法の2001年からの推移を見てみると、首吊りという手段が増加傾向にあることがわかる(2001年は44.5%→2018年は 60.9%)。一方で、中毒は減少傾向にある。
女性自殺者における自殺方法の2001年からの推移を見てみると、2001~2007年は中毒が最も多かった。2013年から首吊りが最多になり、その後両者の差が広がってきた。
特に女性において首吊りが増えた理由は、他の手段(薬物のオーバードーズなど)に規制がかかり行動に移しにくくなったため、また首吊りが早く苦しみの少ない方法だという誤解が広まったためだと考察されている。
イギリスの中年男性の自殺理由
中年男性の自殺の背景には、経済的な逆境や、アルコール依存症、孤独などがより影響しているという。
もっと掘り下げるべく探してみたが、自殺の原因についてはっきりとした統計は出されていないようだった。明らかに自殺率の高い男性の自殺理由についての考察は、以下のようなものが見つかった。
- 環境:低い社会的地位や経済的貧困など。最も社会的地位が低い、または最も貧困な地域に住んでいる男性は、最も社会的地位が高い、または最も裕福な地域に住んでいる男性に比べて自殺率が10倍に及ぶ。
- 個人の気質:精神的病気、うつ、完璧主義、自己批判、深く考え込んでしまうなど。これらは貧困、無職状態や失業、社会的孤立、恋愛・婚姻関係の破綻などと関係している場合もある。ただし、精神的問題を抱える人のうち実際に自殺する人の割合は少ないという。
- 男らしさ:自分を「理想の男らしさ」と比べ、それを満たしていないと恥や挫折感を感じる。特に労働者階級の男性は、仕事を得たり家族に貢献することに男らしさを見出す。自殺はうつやその他精神的問題の中でコントロールを取り戻す方法として見ている男性もいる。
- 恋愛・婚姻関係の破綻:女性よりも男性の方が離婚を理由として自殺する率が高い。男性は配偶者に感情的な支えを求めており、それを失った状態にひどく苦しむ。離婚して男性が子どもと離れる場合が多く、それも自殺の理由となる。また、男性は配偶者との関係において支配的であることを望む傾向がある。自殺を元配偶者への復讐と捉えたり、元配偶者が新たな相手を見つけたことを知り衝動的に自殺する人もいるという。
- 中年ならではの課題:他の年代よりもうつや不安障害になりやすいミッドライフクライシスや、自分より古い世代の前時代的な感覚と、自分より若い世代の前進的な感覚の板挟みとなり社会に順応していく難しさなど、中年特有の問題がある。また、30歳以降の男性は女性に比べて仲間同士で支えあう交友関係を持つことが少なく、配偶者やパートナーに感情的な支えを頼る。
- 感情制御:多くの男性は自分の気持ちについて話すのに抵抗があり、また悩みを対処せずに臨界点まで積み重ねてしまう。また男性は女性よりも、精神のために公的な支援を受けることをよく思っていない人が多い。
- 社会経済的な要因:仕事や地位、教育、収入、住居などさまざまな社会的基準において、低い人は自殺リスクが高くなる。また無職であることと自殺には相関関係があることがわかっており、無職状態の人は職がある人に比べ自殺率が2~3倍高い。
(人生相談サービスを提供する団体サマリタンズによる2012年の研究報告書「Men and suicide」より)
また、従事している職業や役職によっても、自殺率の高さには大きな違いが見られるようだ。引き続き、もう一つの記事で、自殺率の高い職業や役職について見ていきたい。
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