【統計で見る】イギリスでのパートナーの家庭内暴力:内容や影響、警察対応など

イギリスを統計から見るシリーズ。

1つ前の記事では、イギリス(イングランドとウェールズ)の家庭内暴力事情全体について紹介した。その中で、男女共にパートナー(配偶者や恋人)から被害を受けるケースが最も多いことがわかった。

この記事では、家庭内暴力の中でも「パートナーによる家庭内暴力」に焦点を当てて、イギリス国家統計局「Partner abuse in detail, England and Wales: year ending March 2018」の資料からその実情を探っていきたい。

※集計対象はイングランドとウェールズの16〜59歳の男女で、スコットランドと北アイルランドは入ってない。集計期間は2017年3月〜2018年3月のもの(この記事執筆当時最新)。

家庭内暴力の定義

イギリス統計局では、「家庭内暴力(domestic abuse)」を以下のように区分けしている。

  • 非性的な虐待:身体的暴力、精神的虐待、経済的虐待、当事者やその身内への脅迫など

  • 性的虐待:レイプや性的挿入(試みも含む)、不適切な露出、 望まれていない接触など

  • ストーキング:手紙やメール、チャット、電話などで、望んでいないわいせつな内容や脅迫を受け取ることおよびインターネット上での同様の活動、また自宅や職場などでの待ち伏せや追跡、観察など

これより、この記事に出てくる「暴力」には、特別な記載がなければ身体的なものだけでなく、上記の非身体的暴力やストーキングなども含むことを念頭に置いていただきたい。

パートナーによる家庭内暴力についての概要

  • 過去1年間で、パートナーから暴力を受けた人は16〜59歳の人のうち4.5%だった。男女別では女性が6.3%で男性が2.7%。
  • 女性の被害者は、男性の被害者よりも非身体的暴力(感情的、経済的暴力)およびレイプや性的挿入といった性的虐待(未遂も含む)を受けた人が多い。

  • 男性の被害者は、女性の被害者よりも身体的暴力を受けた人が多い。

  • パートナーによる暴力を受けている人のうち、約1/4が家庭内暴力による身体的損傷を負った。

  • 家庭内暴力の非身体的な影響で最も多かったものは「精神的・感情的な問題」であった。

  • この集計期間(2017年3月〜2018年3月)に女性の被害者がパートナーによる暴力を警察に通報した割合は、前回の調査(2014〜15年)のデータと比べると大きく減っている。

家庭内暴力の内容別グラフ

男女別に受けた被害ごとの割合を出したグラフ。青が男性で黄色が女性。

暴力の内容は、上から「非身体的暴力(感情的・経済的暴力)」「脅迫」「身体的暴力」「レイプや性的挿入などの性的虐待」「不適切な露出や合意のない性的接触」「ストーキング」とある。

非身体的暴力は女性の被害者が多く(女性72.6%、男性57.0%)、身体的暴力は男性の被害者が多く(男性45.7%、女性28.0%)受けていたという結果となった。脅迫やストーキング、不適切な露出や合意のない性的接触に関しては、男女差は他の項目より小さかった。

アルコールやドラッグとの関係

「加害者のパートナーが、暴力を振るう際にアルコールや違法薬物の影響下にあったと思うか」という質問を被害者に行った調査結果も出ている。

「アルコールの影響があったと思う」と答えた被害者は16.6%、「ドラッグの影響があったと思う」と答えたのは10.6%であった。またこの回答に、被害者の性別による大きな差は見られなかった。

また、「被害者自身がアルコールまたはドラッグを摂取していたか」という質問には、アルコール摂取が8.1%、ドラッグ摂取が1.7%と、パートナーよりも低い割合となった。こちらも大きな男女差はない。

ただし、これらの質問に対する回答の多くに「わからない」「答えたくない」が含まれるという注意書きが記載されていた。実際のアルコール、ドラッグ摂取の割合に関しては、この数値が正確だとはっきり言えない可能性がある。

家庭内暴力を受けて家を出た人の割合

「パートナーに暴力を振るわれた時に家を出たか」という調査項目もあった。回答した被害者のうち21.4%がパートナーと一緒に住んでいるまたは住んでいたと答えており、そう答えた人のうち34.4%が被害を受けた後に家を出たと回答している(一晩だけという回答も含む)。

家を出なかった人は、その理由として「パートナーに愛や情を持っているから(47.2%)」「家を出ることは考えたことがない(37.1%)」「子どもがいるから(36.7%)」と答えた。家庭内暴力があっても家を出ない人の半数近くが、パートナーに何らかの思いを持っていることがわかる。

パートナーによる暴力がある家庭の子ども

パートナーによる家庭内暴力がある家の40.9%に、16歳未満の子どもが最低1人同居しているという調査結果が出た。この家庭のうち、「子どもが家庭内暴力の場面を見聞きした」と答えた回答者は20.5%、「見聞きしていない」と答えた回答者は64.9%、「どちらかわからない/不回答」は14.6%であった。

家庭内暴力が被害者に及ぼした影響

パートナーによる家庭内暴力の被害者のうち、74.5%は後に残る身体的な損傷は負っていない。身体的損傷を負った被害者は25.5%で(男性31.8%、女性22.7%)、多いけがの種類はあざ(18.0%)、軽いきず(11.3%)などであった。

また、被害者の67.8%は非身体的暴力を受けていたと答えた。非身体的暴力の影響を調べたグラフが以下となる。

青が男性で黄色が女性。内容は上から、「精神的・感情的な問題」「人を信じるのを止めた/他の人間関係で困難を感じる」「自殺しようとした」「その他(妊娠した、病気をもらったなど)」。

男女ともに最も多いのは「精神的・感情的な問題」で、女性が52.4%、男性が41.2%。また「自殺しようとした」の項目のみ、男性の方が女性より高い割合となっている。

家庭内暴力によって身体的・非身体的な影響を受けた被害者のうち、何らかの医療機関を受診した人は33.1%。そのうち、かかりつけ医にかかったのが83.1%、メンタルヘルスや心理ケアの専門家にかかった人は12.2%、救急外来にかかった人が12.2%という。

医療機関にかかった被害者のうち、身体的・非身体的影響両方に対する受診は42.0%、非身体的影響のみに対する受診は56.8%であるのに対し、身体的影響のみに対する受診は1.2%とごくわずかだった。身体的に大きなけがを負う人の割合はかなり少ないようだ。

医療機関にかかった被害者の男女別割合は、女性73.6%、男性26.4%。

家庭内暴力のことを誰かに話したかどうか

「パートナーによる家庭内暴力のことを人に話したか」を調べる項目では、「話した」と答えた被害者は72.4%と多数に上った。話した相手は、男女ともに「友達や近所の人、親戚」が一番多かった。

また、パートナーによる家庭内暴力被害者のうち31.2%が公的機関を利用したと答えた。犯罪被害者のトラウマや精神的な問題をサポートする代表的な福祉機関「Victim Support」へ連絡した人は女性10.8%男性2.5%で、その他の専門機関へ連絡した人は女性7.3%男性1.2%と、女性の方が公的機関を利用する傾向にあることがわかる。

警察に通報する割合と警察の対応

2015〜2018年の家庭内暴力被害者が警察に通報した割合を表したグラフ。青が男性、黄色が女性、藍色が全体。被害者全体では、通報する人は約20%である。

男女合わせた全体の変化はそんなに見られないが、女性の被害者が通報する割合は大きく減り、逆に男性被害者は大幅に増えている。この理由は資料上では明らかにされていない。

警察に通報しなかった被害者にその理由を聞くと、「警察に通報するほど大事ではなかった(45.5%)」「プライベート、または家族のことで警察に介入されたくない(39.5%)」「警察が助けてくれるとは思えない(34.2%)」などが挙げられた。

今度は、警察の対応を見てみよう。

パートナーによる家庭内暴力は、身体的暴力よりも非身体的暴力の方が多く、その後への影響も大きいことがわかった。また、警察が通報のうち6割しか対応していないこと、またその対応に満足しているのはそのさらに半数しかいない。これでは警察に通報する人はさらに減ってしまうのではないだろうか……。

パートナー以外も含めた、イギリスの家庭内暴力の統計についての記事はこちら。

【統計で見る】イギリス(イングランドとウェールズ)の家庭内暴力の現状