イギリスを統計から見るシリーズ。
今回は、イギリスでドラッグ中毒による死亡者がどれだけいるのか、「イギリス人のドラッグ中毒死(2017年最新版)」について。
概要と、興味深かったものを抜粋して訳してある。
元資料:Deaths related to drug poisoning in England and Wales: 2016 registrations(PDFダウンロードもあり)
イギリスは日本と比べると、一般人でドラッグをやっている人がはるかに多いように感じる。マリファナなどは安く売っていて、どこでも買える(売人が道にうろうろしている)。イギリスでもマリファナは違法だが、そんなのどこ吹く風という感じでやっている人がたくさんいる。
注意点
- この統計の「ドラッグ」には、違法のものと合法のもの、どちらも入っている。それを踏まえたうえで読んでほしい。
- 統計対象はイングランドとウェールズ。
目次
概要
- 2016年のドラッグによる死亡者は、違法合法含めてイングランドとウェールズで合計3744人。2015年より70人(2%)増加しており、統計を開始した1993年以来最も高い数値である。
- このうち、69% (2593人)がドラッグの誤用で死亡している。
- 100万人中のドラッグによる死亡者の数は、ウェールズでは2015年には58.3人だったが、2016年には66.9人に増加した。イングランドは変化が見られなかった。
- 40~49歳の年代が一番ドラッグによる死亡者率が高い。
- このうち半分以上(54%)がアヘン(主にモルヒネやヘロイン)の使用である。
ヨーロッパの中でも高い数値
ドラッグに関係した大人の死亡率は、イギリス(イングランドとウェールズ)はヨーロッパ全体の平均の約3倍と非常に高い。ただ国によってカウントする条件や統計方法が違っていたりするので、単純に比較するのは難しい。
ドラッグ誤用による死亡者は男女共に増加
下のグラフのように、ドラッグに関連の死因は、ドラッグの誤用が大半を占めている。左側が、全体のドラッグ関連死亡者数、右側はそのうちドラッグ誤用死亡者数である。青色が男性、黄色が女性。
2016年の統計では16~59歳の男性の約12%が違法ドラッグを使用したのに対し、女性は5%であった。これは男性のドラック誤用死亡率が高いことにも関係している。
青色が男性、黄色が女性。男女共に近年増加の傾向にある。男性は2012年から急激に増加、2016年には100万人あたりの数が67.1人と統計の始まった1993年以来の最高値である。女性は全期間で緩やかに増加の一途をたどっており、2016年には100万人あたり24.2人でこれも記録上最高値となった。
ドラッグ誤用の大半は中毒事故である
男女共に、ドラッグ誤用で最も多い死因は予期せぬ中毒症状による中毒事故である。2016年の人数では男性が1561人(ドラッグ誤用死亡者の82%)、女性が501人(ドラッグ誤用死亡者の72%)であった。
精神異常や行動異常によって亡くなる人は5~6%で、主にドラッグ依存や乱用によるものであるが、大量摂取により中毒事故と似た状況で亡くなっているものもある。
また自殺による死亡者は女性の方が男性より高い。2016年の統計では女性23%、男性11%であった。
年代別では最もドラッグ誤用の死亡者が多いのが40~49歳
近年では30~49歳が最もドラッグ誤用死亡者が多い年代となっている。他の年代グループと比べてかなり高い数値だ。特に40~49歳グループの死亡者数は2012年から顕著に増加し、2016年には30~39歳グループを追い越した。
50~69歳グループの死亡者数も2012年から増加の傾向にある。20~29歳グループの死亡者数は2013年以降横ばいである。
成分別死因はヘロイン(モルヒネ)が圧倒的に多い
青色がヘロイン(モルヒネ)、黄色がベンゾジアゼピン、紺色がコカイン、水色がアンフェタミン(覚せい剤)、緑色がNPS(新精神作用物質。脱法ドラッグなど)
薬物の簡単な説明
- ヘロイン……アヘンに含まれるモルヒネから作られる麻薬の1つである。
- ベンゾジアゼピン……古くから使われていた向精神薬で、短期の服用は比較的安全であるが長期の場合は精神的、身体的に有害な影響を及ぼすという。
- コカイン……局所麻酔薬としても使われるが、中枢神経を興奮させ、覚せい剤より強い興奮作用だが、持続時間は短い。また大変強い依存性を持つ。
- アンフェタミンは、覚せい剤の一種で、中枢興奮作用、精神依存、薬剤耐性を持つ。耐性がつくのが早く、依存症になりやすい。
- NPS……合法だが違法薬物に似た作用をもつ新種の向精神薬。日本では脱法ドラッグと呼ばれる。
このグラフでは、ヘロインによる死亡者数が2012年から2015年にかけて大幅に増加している。これは2010~2011年にイギリスで起きた「ヘロイン不足」に関係している。この時期はヘロインと他の薬物を混ぜて摂取する人が増え問題になったが、この後ヘロイン不足が解消されると(その反動か?)大量摂取する人が増えたのだという。
脱法ドラッグによる死者数は増加し続けている
NPS(新精神作用物質/脱法ドラッグなど)はイギリスでは2008~2009年に急激に広まり始めた。
NPSとして分類されているのは、γ-ヒドロキシ酪酸 (GHB) 、γ-ブチロラクトン (GBL)、ピペラジン、メフェドロンなどのカチノン系成分、ベンゾフラン、ベンゾジアゼピン系薬物などの処方薬などである。
NPSは出てきた当初は違法ではなく、別名「リーガル・ハイ」とも呼ばれていたが、現在はイギリスではthe Misuse of Drugs Act 1971という法律の下、違法になっているものも多い。
他の薬物に比べればNPSの死亡者数はかなり少ないものの、過去5年間でその数は急激に増えてきており、2015年から2016年では8%(年間114人→123人)の増加が見られた。
また、2016年の死亡者数123人のうち、39人は法律で規制されていないドラッグの使用が確認されている。イギリス政府は2016年にNPSの輸入、生産、供給を取り締まる法律を制定したが、この効果が統計として出てくるのは数年後になると見られている。
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