前編の記事「ロンドンの気になる駅名・地名(前)その歴史と由来を探る【なぜそんな名前に?】」に続いて、ロンドン内で由来が気になる駅名をピックアップしてその起源を探ってみた。
後編となるこの記事では、その中でもロンドン外の地名が含まれていたり、パブ由来であったりするものをまとめた。一口にパブ由来と言っても、そのパブがその名前を採用した経緯もさまざまな背景があって面白い。パブの名前が地名・駅名になるとは、本当にパブはイギリス人に欠かせないものなのだなと思う。
他地域の地名や国名がついている駅名
Canada Water(カナダ・ウォーター)
カナダウォーターという池から名付けられた駅名。この池は、カナダからの船が停泊するのに主に使われたカナダドック(カナダ埠頭)から名前がとられたという。このドックは現在はなくなっている。
Cyprus(キプロス)
この付近にあるドックで働く人たちのための不動産会社キプロス・エステートから名付けられた。この会社の名は、1878年に大英帝国がキプロス島を統治下におさめたことを讃えてつけられたもの。
East India(イースト・インディア)
これは察しがつく人も多いだろう。そう、歴史上よく知られたあの東インド会社である。
近くにあるイースト・インディア・ドックから名前をとっており、このドックは、19世紀にインドの物品を輸出入する東インド会社が作ったものだ。
West India Quay(ウエスト・インディア・キー)
上記のイースト・インディアに似た、ウエスト・インディア・キーという駅もある。これもウエスト・インディア・ドックというドックから名付けられたものだが、実はインドとは関係ない。
ドックが建設された19世紀当時は、「ウエスト・インディア(西インド)」とはカリブ海諸国を指す言葉であった。それより数百年前の時代、コロンブスがカリブ海の島に到達した時にそこをインドだと勘違いしたことが由来であるという。実際のインドは、「イースト・インディア(東インド)」と呼ばれ区別されていた。
そう、このドックはカリブ海諸国の品物を運んでくるために使われていたのである。
Holland Park(ホランド・パーク)
同名の公園から名付けられた駅。ホランド(オランダ)という名前がついているが、国のオランダとは関係ない。公園の名前は、辺り一帯の土地を所有していたホランド伯爵という貴族の名前に由来する。
この公園、野良孔雀がいたり日本庭園があったりとなかなか面白いので、観光におすすめ。
Lebanon Road(レバノン・ロード)
同名の道路から名付けられたトラムの駅。これに関してはいまいちはっきりとした由来が見つけられなかった。
この道路があるエリアにはレバノン移民が多いことから、それにちなんでつけられた可能性があると推測できる。また、同名の道路がロンドン内にはこれ以外にも複数あるようだ。
Liverpool Street(リヴァプール・ストリート)
同名の道路から名付けられた駅。なぜイングランド北西部にある都市リヴァプールの名が入っているのだろう。ロンドンからリヴァプールまでは鉄道で2.5~3時間かかり、地理的にはまったく別の場所である。
実は、この道路は1827年に当時の首相であったリヴァプール伯爵を讃えて名付けられたのだ。もちろん、この伯爵の称号はリヴァプールの街からとられたものである。
Oxford Circus(オックスフォード・サーカス)
こちらも、有名大学のある街オックスフォードの名前を冠するオックスフォード・ストリートからつけられた駅名。ちなみに、オックスフォード・サーカスのサーカスとは、ここでは複数の道路が集まった円形の場所を指す。
「オックスフォードに続く道」という意味なのだろうか。オックスフォード・サーカスからイングランドの街オックスフォードまでは、電車や車で1時間半かかる。リヴァプールよりは近いが、それでもかなり離れた地域である。
この名前の由来は古代ローマ時代にまでさかのぼる。当時、ローマ人は主要都市を結ぶローマ街道という長い道を持っていた。現在のオックスフォード・ストリートもその街道上にあったといい、つまり本当に「オックスフォード方面に至る道」という意味だったのだ。オックスフォードという地名はすでにその時存在しており、「form of the oxen(牛が通る浅瀬)」という語源がある。
Waterloo(ウォータールー)
ウォータールーは、ベルギーの地名ワーテルロー(フランス語)の英語読みである。
こちらは同名の橋から名付けられた駅名。橋の名前は、橋開通セレモニーのちょうど2年前に起きた欧州戦争「ワーテルローの戦い」のイギリス側の勝利を祝って付けられた。
パブからとられた駅名
Angel(エンジェル)
なんで「天使」なんだろう、と思ったが、昔このエリアにあったThe Angelという宿屋(パブに宿泊施設がくっついたもの)の名前からとられたものだという。店自体はかなり昔からその場所にあったというが、エンジェルという名前に変わったのは1600年代前半頃。1900年代後半まで営業していたが、現在ではなくなってしまった。
Elephant and Castle(エレファント・アンド・キャッスル)
「象と城」という、何か物語が背景にありそうなネーミングだが、こちらも同名のパブ兼宿屋からとったもの。この宿屋はなんでそんな名前を付けたのかというと、その宿屋があった場所には元々、剣やナイフを作る刃物職人のギルドがあり、その紋章が以下のような「象に城を乗せた」図像であったからだという。
象は、当時ナイフの柄に使われる象牙を象徴し、象の背に乗せた城(象かご)は、当時は象を見たことがなかったイギリス人のために象の大きさを見せる狙いがあったのかもしれないとされている。
Swiss Cotage(スイス・コテージ)
上の「他地域の地名や国名がついているもの」セクションともかぶるのだが、パブ兼宿屋由来なのでこちらに。こちらは、1840年にできたスイス様式の建築を持つSwiss Tavernというパブが、有名なランドマークになり、そこから駅名が付けられた背景がある。
このパブは現在でも再建された形で残っており、Sam Smith’s というパブチェーン企業がYe Olde Swiss Cottageという店名で運営している(イギリスのパブはチェーンでも店名がそれぞれ異なるものがある)。
普段何気なく通り過ぎたり利用したりしているエリアでも、実はこんな歴史が裏に隠されていたのか、と思うとちょっと感慨深い。これ以外にも、興味深い背景がある地名はたくさんあることだろう。
前編はこちら。
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