アメリカ英語とイギリス英語の違いで、よく語られるのがスペルの違いである。color(アメリカ英語)- colour(イギリス英語)とか、center(アメリカ英語)- centre(イギリス英語)などは代表的な違いとしてよく挙げられる。
イギリスで使われる単語の中でも、私が初めて知った時に特に衝撃を受けたものがある。「拘置所、刑務所、監獄」を意味する単語「jail」の古いイギリス版スペル「gaol」である。
イギリスではjailとgaolはどちらも使われているが、現在はjailの方が使われることが圧倒的に多い。新聞や日常的に目にするものにはほとんどjailが使われている。なので、そういう意味では、アメリカ英語とはっきり区別され、現役で使われている上記の例(colourやcentre)とはちょっと毛色が違う。
ただイギリスに住んでいれば、gaolもたまに見かける単語ではある。現在使われているgaolは、歴史上のトピックや古い文節に出てくることが多い(私は、普段博物館や美術館の解説や、歴史関係の本や文書で遭遇する)。
実際に「gaol」が含まれた名前で知られる刑務所が2010年代まで稼働していたこともあった。また、50歳以上の世代には「jailはアメリカ英語だから」とgaolのスペルを個人的に好んで普段から使う人もいる。
「gaol」=「Jail」
goal(ゴール)と似ているスペルのgaol、読みもそのままjailと同じ「ジェイル(dʒéɪl)」なのである。
スペルに発音がまったく追いついていない、いやその逆か? まあ何でもいい。英語は常々スペルと発音が一致しない(一貫性がない)のだと散々泣かされてきたが、gaolはそんなレベルではない。
ではなんでこんなことになっているのか、調べてみることにした。
gaolが使われるようになった理由
gaolの起源は古ノルマン語のgaiole(またはgayolle、gaole)から、jailの起源は古フランス語のjaiole(またはjaole、jeole)とされる。どちらもフランスの言葉から英語に入ってきたのには変わりない。
さらにこの2つの語の起源はラテン語の一単語(つまり同じ言葉)であった。元祖のラテン語の単語が、昔のフランスで2つのスペルに分かれたことからこの違いが生まれたのだった。
中世のイングランドではすでに、この2種類の英単語が混在する状況になっていた。gaioleを起源とする英単語gayol(gaolの元)は、hard g(greatで使われるg)で発音されていた。
後に口語ではjailの発音が優勢となったが、文語では法律や公的な文書でgaolのスペルが残り続けることとなった。
イギリスでは、1800年代半ばまでgaolのスペルがjailより人気が高かったらしい。
新聞社も当初はgaol表記を採用しており、最後までgaol表記を残していた媒体の1つであった大手新聞ガーディアンは、1980年代についにjailへと表記を変えたという(こうした媒体を読んで育った世代が今でもgaol表記を好んで使うのだろう)。
一方アメリカでは、公的な文書でも日常的にもjailが用いられているようだ。
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まとめると、元々jailとgaolの起源になった2つの単語が存在し、年月と共にgaolの発音は消え去りスペルだけが残った、ということだ。
このスペルも、世代交代があと少し進むと、日常で使われる機会は消滅し、完全な古語になっていくのだろう。言葉の移り変わりを間近で見ているような気分になって、ちょっと感慨深い。
参照元:
- Why did we ever spell jail gaol?
- Which word is used more in the UK: ‘gaol’ or ‘jail’?
- jail, gaol and prison
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