生魚という概念がもともとはなかったイギリス。それでも、近年の日本食ブームにより、イギリス(というかロンドン)で刺身や寿司を食べるのは、決して難しくない。ただ、手に入りやすさと価格の面で日本よりもハードルがかなり上がることは確かである。普通のスーパーには生食用の魚介類は売っていないし、そもそも魚が高いからだ。
在英日本人は、あれやこれやと自分の生魚欲を満たそうと日々頑張っている。少なくとも私は頑張っている。ここでは、ロンドンに住む私が、これまでの経験から寿司や刺身といった生魚を手に入れるための手段を紹介していく。
全般的なイギリスの魚事情はこちら。
目次
ロンドンで刺身・寿司を食べるには
イギリス……というかロンドンで生魚にありつく方法はいくつかある。
日本食レストラン、本格寿司屋に行く
これは、コストは一番かかるが一番確実な方法だ。
評判のよい場所を見つければ、日本と遜色ないほど美味しい刺身や寿司が食べられたりする。
ただおそらく、イギリスでは日本食はあらゆる料理の中でもほぼ最高級レベルに属する値付けがされている(ベースというか最低価格帯が高い)。
ただでさえ外食が高いイギリスで、さらに高いジャンルの料理が日本食なのだ。美味しい日本食をお店で食べようと思ったら、他の料理と比べてもそれなりに高めの予算を想定しておかないといけない。
イギリスのチェーン寿司店に行く
最近は、寿司ブームのおかげで、イギリスにはカジュアルな寿司チェーンショップが乱立している。
イギリスのチェーン寿司店
特に「Wasabi」「itsu」というパック寿司販売の二大チェーンは、イギリス中に広く展開している。
主なレパートリーはサーモン、マグロ、エビくらい。サーモンとマグロは刺身も売っている。
緊急に生魚欲を満たしたい場合にはこういう店は使えると思う。個人的には、シャリとマグロの品質は残念だけど……。生魚が食べられるだけありがたいと思わなくては……という精神状態になっているので、割と目をつぶれる。
Wasabiのパック寿司はこんな感じ。見た目からして、日本のスーパーの寿司のクオリティなど期待してはいけない。正直、私から言わせれば日本のスーパーの寿司は神である。あんなに手軽に、あんな安価で手に入るなんて……。
巻き寿司にはかなりの割合でアボカドが入っている。以前イギリス人に「日本ではアボカドの寿司は人気なの?」と聞かれたので「本来の(日本の)寿司はアボカドを具にしない」と教えたら「Oh my God……」と驚かれた。それくらい、アボカドは寿司の具としてメジャーである。
スーパーにもパック寿司が置かれるようになってきたが、それを食べるくらいならこのチェーン店で買ったほうが良い。
回転寿司のお店
イギリスで流行っているイギリスのイギリス人のための回転寿司もある。
「Yo!Sushi!」という威勢のいい名前のチェーンが流行っているが、私は入ったことはない。現地人は絶賛するが、日本食をよく知っている人や日本人からは「ひどい」と聞いているからだ。
今試しにウェブサイトに行ってメニューを見てみたが、サバの握りにテリヤキソースがかかっているというのを見てそっと閉じた。
やっぱり行かなくてよかった。
試しに一度くらい行ってみてもいいのかもしれない……けれど、100円寿司くらいなら試してみたいが、普通に一皿3〜5ポンドとかなので全然気が進まない。
こうしたイギリス発祥チェーン店ではイギリス人向けに改造された寿司、いやSUSHIの数々が楽しめる。
詳しくはこちら。
イギリスの寿司は日本の寿司とどう違う? 驚きの進化を遂げている「SUSHI」
生魚を売る日本食材店を利用する
日本食材店ではバラエティ豊かな刺身が手に入る
ロンドンにあるジャパンセンターという日系スーパーでは、きちんとした刺身を売る鮮魚コーナーがあり、マグロ、サーモンのほかに、ブリ、タイ、タコ、ホタテなどが入った盛り合わせが比較的リーズナブルに買える。ボリュームによって8~25ポンドくらいまで、値段の幅がある。
こんな感じの、数種類の盛り合わせ刺身が売っている。おそらく日系スーパーが一番日本のスーパーに近い刺身パックを揃えている気がする。これはそれを買ってきて手巻き寿司をした時の様子。
もちろんバラエティは日本のスーパーには叶わないが、イギリスでの事情を考えたら救世主だ。高いけど……。
あとは「Atariya」という日本食スーパーも、ロンドン中心部から少し離れたところにぽつぽつと店舗があって、そこでも刺身を買える(ロンドン中心部では、1店舗Bond Streetにある)。
日系スーパーについては、この記事↓がもっと詳しいのでどうぞ。イギリスで手に入りにくい日本食材も一覧にしています。
刺身用の魚を売る魚屋(レア)を利用する
最近の寿司ブームに乗っているのか、ロンドンの魚屋にも「生食できる用の魚」を売るところがちらほらある。そこでは、ちゃんと生で食べられる新鮮な魚を売っているのだ。こうした魚屋は公式サイトの説明とかレビューを検索するか、口コミで見つけるしかない。
私の住むところの一駅先にもそういう魚屋があるので、よく利用している。生食用としてだいたい常に置いているのは、サーモン、マグロ、シーバス、タイ。あとは日によってサバ、イカやホタテ、その他の白身魚などがある。
私が普段買うところでは、基本、「サーモンを〇〇g、マグロを〇○g……」のように注文する。シーバスやタイなどは、グラムではなく1匹単位でしか売っていない(刺身用と言えばその場でさばいて柵にしてくれる)。あとは、柵を自宅で刺身用に切る必要がある。
値段は、日系スーパーで買うより安い。特に刺身にできる鮮度であることを考えればずっとお得だし、日本食レストランや寿司屋に行くのと比べると同じ値段でもたっぷり食べられる。まあ種類はもちろん寿司屋より限られるけど。
あとは自分で酢飯を作って、心ゆくまで生魚を堪能できる手巻き寿司会(または刺身パーティー)の始まりである。この画像は以前我が家で催された会。
自分で切るなどの手間は必要だが、コスパを考えれば全然良い。
もちろん、良きお店でいろいろ味わうのもいいけれど、たまにはこのようにして欲望のままに思う存分生魚を喰らうことも大切なのだ。
……でもやっぱり、日本の一般的なスーパーで買う刺身の方が質がいいけどね(小声)
「生に近い状態の魚介食品」を利用する
魚屋でお得に手に入る……とはいえ、やはり生魚は日本のようにどこでも手に入るわけではないし、安い値段で盛り合わせが買えるわけでもない。
お財布や時間の関係で、刺身を買えないときもある。そんな時になんとか生魚欲をなだめてくれるのが「疑似生魚」。要は、「生魚に割と近い魚製品」だ。
スモークサーモンは生にかなり近い
本当に簡易的に生魚欲を満たすものとして、スモークサーモンがある。イギリスはスモークサーモン大国である。サンドイッチにも前菜にもスモークサーモンはよく使われるし、どこのスーパーでも売っている。
これは生魚の一切入っていない海鮮ちらし寿司。スモークサーモン、湯でエビ、アボカド、卵などを五目酢飯に載せたもの。サーモンに塩気があるので、わさびや醤油はお好みで。これでも十分美味しい。「ああ寿司が食べたい」と思ってもどうしようもない時に、どうにかこれで事なきを得るのだ。
ちなみに、スモークサーモンにも燻製のレベルがあり、普通のとマイルドというラベル分けがある。私はあまり燻製そのものが得意ではないので、いつもマイルドを選ぶ。燻した香りもそこまで気にならないし、いい感じ。
また、どこでも見かけるわけではないが、ドイツやオランダで食べられている美味しい生ニシンの塩漬けも手に入る。
それを使って、あの懐かしい味、なめろうを作ろうとしてみたチャレンジについてはこちら。
イギリスでも手に入る生ニシンの塩漬け。それでなめろうを作ってみた
手軽に手に入る刺身の中で一番美味しいのはサーモン
イギリスで割と手に入りやすい刺身の中で一番美味しい刺身は、サーモンだ。まあ、意外でもないかもしれない。
イギリスのサーモンは美味しい。スモークサーモンが有名なだけあって、生の刺身も美味しいのだ。
前述したWasabiなどの寿司チェーンでも、マグロやエビは美味しくないが、サーモンは美味しい。脂が乗っていて柔らかいながら、ぷりぷりと弾力もある。
こっちに住んでいると、どうしても生魚に飢えてくるので、その「刺身欲」をてっとり早く満たしたい時には、サーモン寿司(刺身)は便利だ。どこでも手に入るし、美味しいから。
ちなみに、島国イギリスは、サーモンすらノルウェーから輸入しているというのだから、もう根本的に魚に対して関心がないのだと思う。
というわけで、これらの選択肢をローテーションしながら、なんとか生魚欲を満たしている。日本に一時帰国する時は、ここぞとばかりに好きな種類の魚の刺身や寿司を食べまくる。
まあイギリスでこんな手段があるだけありがたいと思いつつ、もっと魚の生食が広がってほしいなあ、とも思うのだった。
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