全ミュージアムが閉鎖したロンドンで、美を探す。美はどこにでもある。

新型コロナウイルスでロックダウンになってからというもの、イギリスのミュージアムはすべて一時閉鎖している。

美術や歴史が大好きで、ミュージアムが心安らぐ場所&感動に出会う場所の中心である私にとってこれは痛手だ。年中博物館・美術館を回り、もう1つのブログで展覧会レビューも書いているが、それもしばらくできないだろう。おそらく、オープンしても入場制限が以前より厳しくなるはずだ。

柵越しに覗いた、閉鎖中の人が全くいない大英博物館

毎日どこにも行けず閉塞感が募る中、「私は美術作品だけが好きなのではない、美しいもの全般が好きなのだ。ミュージアムに行けなくたって美しいものは見つけられるのでは」と思い立ち、日々の徒歩圏内の外出の中でもう少し細部に目を向けてみようと考えた。

最近は特に外出禁止が緩和されたこともあり、運動のため、必要な買い物以外にも散歩に行くようになった。

いつも通る道も、よく注意して観察するだけで、色々なものがあると気づいたのだ。ここでは、ロックダウン下の“冴えない”日常で見つけたものを記録していく。

イギリスロックダウンについて、過去に書いたブログ記事はこちら。

自然の生み出す美

ロックダウンが初まった3月下旬から、ロンドンでは日が長くなり快晴続きだ。

ロンドン市内には小さな運河が至るところに張り巡らされている。うちの近所もだ。水面に映し出された青い空が綺麗。

暖かな陽の光を浴びながらこんな静かで平和な風景を見ていると、今起きている大惨事がどこか別の世界のことのような、非日常な感覚を覚えてしまう。そう思えるのはとても幸せなことなんだろう。今でもこの国、同じ都市で、命を落としている人や最前線で戦っている人がいるのに。

太陽がどんどん幅を効かせる中、目に入ってくるのはやはり、自然がこれでもかと見せつけてくる美しさ。

外を歩けば、あらゆる場所で、色とりどりの花がその生を証明するように満開に咲いている。長く暗い冬との対比が極端で、綺麗な花を見るたびに感動してしまう。

小さな花でも、ハッとするくらい綺麗なものがある。

イギリス人はガーデニング好きだ。ロンドンの家のほんの小さな庭先にも、この季節にはさまざまな種類の花が顔を見せる。自分たちで楽しむだけでなく、通る人の目も楽しませるかのように植えられ、手入れされているのは、いいな、と思う。

休業してしばらく経つ近所のパブにも、春が来た。ピンク色が可愛い。

こっそりと覗く、秘密の花園のような空間。普通なら、この空間(テラス)は友達同士でお酒を飲み交わす人達でいっぱいのはずだった。

本来なら、こんな天気の良い日には人が集まっていただろう公共のエリアもこんなに空っぽ。写真ではなぜかすごく素敵なスペースかのように撮れてしまったが、肉眼では人だけをフォトショップで消したようなディストピアな雰囲気が漂っていた。それが面白いやら、ちょっと悲しいやら。

花なのか、葉っぱなのか、よくわからない植物。

公園で見かけた、とんでもない造形の木。こんなのが生えてくるなんて、育つなんて、自然はすごい。

すくっと背を伸ばして生えている植物は、格好良くもある。

そうか、もうバラの季節なんだ。

少し意識してみるだけで、こんなに沢山の美しい花や植物が目につくのだと気づく。

バラの壁。

集まって壁を作り出しているバラの一部。

こちらは黄色と緑のカラフルなツタの壁。まるでモザイクのタイル壁画みたい。自然は芸術を模倣する、という言葉を思い出した。

関連記事(姉妹サイトに飛びます):「自然は芸術を模倣する」アンチミメーシスとデカダンス

緑と、それを照らす木漏れ日が美しくて撮った1枚。この時勢だからか、余計にこういうものに感動しやすくなっている気がする。生を感じるもの、キラキラとしたもの、明るいもの。そういったものに飢えているのかもしれない。

見慣れた道でちょっとした発見を楽しむ

公共交通機関が使えないので、必然的に外出は徒歩圏内=近所になる。そんな時でも、何度も歩いている道でも、新しい発見があることに驚く。

大英図書館の扉。普段は遅くまで開いているので、閉じたところを見たことがなかった。「BRITISH LIBRARY(大英図書館)」の文字でデザインされているのを初めて知った。粋じゃないか。

古いビルの装飾。ちょっと見づらいが、二頭のグリフィンが垂れ幕のようなものを咥えたデザインが施されている。

ホテルの装飾彫刻。天使を二人あしらい盾型の紋章のような形にしたデザイン。流線型の翼が美しい。繊細な彫りは、遠目からでも目を引く。

マクドナルドの、ウインドウ席下の装飾デザイン。何気に「M」の字を組み合わせてできていたのね。面白い。かなりの回数通り過ぎているのに、知らなかった。

モダンアートオブジェを見つけた。「私は、まだ見つけられていない泥の中のダイヤモンド」というようなフレーズが書いてある。ダイヤの原石、と少し似たニュアンスかな。上に積み上がっているのは、本当にゴミ収集所からランダムに物を持ってきて積み上げたような、ちょっとカオスな構成。

なぜか道路名の看板に設置されていた、第一次世界大戦の戦死者のメモリアル。今まで何度も通った道なのに、見たことがなかった。新しく設置されたのかもしれないけど……。

この地区出身の戦死者の名前が書かれている。フランスやトルコで、戦いのさなかや、傷が原因で亡くなった人たち。一番若い人は19歳だという……。

横には十字架とポピーが添えられている。ポピー(ヒナゲシ)は、イギリスでは戦没者を悼む時に使われるシンボルの花だ。

パブの壁に飾られた、九連のキリストの浮き彫り。キリストが十字架を運ぶ受難の様子が表されている。下の看板が普通に「ブランチ」とか「ミュージックライブ」とか和気あいあいとしていて、受難パネルとの対比がシュール。

同じパブの違う壁には、古い建物から少し浮いた、新し目の時計がかけてある。でも、止まっていることに気づいた。針は4時台を指しているが、この写真を撮った時は2時ぴったりだった。

いつから止まっているんだろう、なんて考えていると、空想癖がある私はすぐストーリーを作り出してしまう。

ロックダウンになってから設置された、病院前の花のオブジェ。「We are your NHS」というメッセージが添えられている。NHSとはイギリスの国民保健サービスのこと。この病院は「私たちがあなたのためにここにいますよ」という励ましのメッセージを発してくれているのだ。

このレインボーは、今は最前線でコロナウイルスと戦ってくれているNHSのスタッフを讃えるシンボルとしても使われていて、一般の人の家の窓にもレインボーの絵が貼ってあるのをよく見る。本当に、毎日医療現場で働いてくれてる人には頭が下がる。

こんなに大きな花のオブジェを見るのは久しぶりで、その背景にある意味も読み取った上で心が動かされた。

これは別に時勢とは何も関係ないが、道に信号機が渋滞しているのが面白くて撮った。あまり見られない光景だな、と……笑。仮保管の場所なのかな。


絵画や彫刻などの美術品が街中にあるわけではない。世紀の傑作のような建築物も(私の徒歩圏内には)ない。でも、美しい、面白いと思えるものは街を歩くだけでも見つかる。

むしろこんな時でもないと、気づくこともあまりなかったかもしれない。刺激が少ない今だからこそ、すでにあるもの、持っているものにゆっくり目を向けられるのかも。最近は、そんなことを考えるようになった。

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