「エドワードのあだ名はなぜテッド?英語人名の短縮形の謎を解く」の記事に引き続き、今回も西洋人の名前の謎に迫ってみる。
姓と名しか持たない日本人である私にとっては、西洋人が持つミドルネームという概念はよくわからない。なぜ名前が2つあるのだろう……何のためにあるのだろう……。
ドイツ人の夫も「アレキサンダー」というかっこいいミドルネームを持っているが、実生活で使っているところを見たことがない。公的な書類に記載されているだけである。むしろ、普段使わないのに公式書類で名前記入欄が増えて大変そうだな……という印象。
というわけで、今回はミドルネームについて、その概要や目的、歴史などを紹介していく。
目次
ミドルネームとは
ミドルネームとは文字通り、名(First name)と姓(Last name)の中間に来る、3つ目の名前のことだ。
例えば、イギリスの有名な科学者ダーウィンのフルネームは、チャールズ・ロバート・ダーウィンで、ロバートというミドルネームを持つ。
日本では、ミドルネームを持つのは法律で認められていない。ただ、何らかの事情でミドルネームを持つ人は、下の名前の一部として(つまりミドルネームとラストネームをくっつけて)戸籍に登録することは可能であるという。
全員がミドルネームを持っているわけではない
ミドルネームを持つ文化がある国でも、すべての人が持っているわけではない。多くの国では「ミドルネームは基本的にオプションある」という認識であり、子どもが生まれた時にミドルネームをつけるかどうかは完全に自由であるようだ。
私の住んでいるイギリスでも、ミドルネームを持つ人、持たない人さまざまだ。
ミドルネームを持つ国・民族
西洋圏ではミドルネームを持つ人が多い、というぼんやりした理解しかないので、実際にどの国でミドルネームが存在するのか調べてみた。
統計的な資料は見つからないので、複数の資料(掲示板みたいなものも含む)を横断してみた結果だ。なので、完全に正確ではない可能性もあることを考慮しつつお読みいただきたい。
また、ミドルネームを持つ民族や国でも、その割合はそれぞれ異なるので、一般的であるかどうかはその国による。
アフリカ
- ナイジェリア人:ヨルバやイボ、ハウサなど一部の民族
- ソマリ人
西洋諸国
- アメリカ
- カナダ
- ラテンアメリカ諸国
- オーストラリア
- ニュージーランド
- ヨーロッパ諸国
ほぼすべての国でミドルネームの慣習は存在するが、一般的かどうかは国によってかなり異なるようだ。例えばヨーロッパなら、イギリスやドイツや北欧では多くの人が持つが、イタリアやチェコでは現在はあまり一般的ではない、など。
中東
- イラクのクルド人
アジア
- インド
- ベトナム
- フィリピン
ミドルネームは何のためにある?
ではこうしたミドルネームは何のためにあるのか。その理由はさまざまあるようなので、代表的なものを以下にリストアップしてみた。ちなみにこれは現代の理由であり、歴史上ずっとこのような理由があったことを必ずしも意味するものではない。
- 一族に代々伝わる名前や、大切な人物(家族や友人や、尊敬する偉人など)の名前を継承するため
- 母親の旧姓を残すため
- 聖人の名前を入れるため
- 子どもが大きくなった時に好きな方の名前を選べるように
- 命名の際どちらの名前にするか決められなかったとき
- 同じ名前を持つ人と違いが付けられるように
- 単純に文化であるから
ミドルネームを2つ以上持つ人もいる
国や文化によっては、ミドルネームを複数持つ人もいる。例えば、イギリスのエリザベス2世のフルネームはエリザベス・アレクサンドラ・メアリー・ウィンザーといい、アレクサンドラとメアリーという2つのミドルネームを持つ。
アレクサンドラは女王の曾祖母の名前、メアリーは父方の祖母の名前からとられている。
BBCの記事によれば、このように、複数の人物にあやかり複数のミドルネームがつけられる時もあれば、女性が結婚後に自分の旧姓をミドルネームに付け足した結果複数になったり、または養子をとった時に安全上の理由から養子の名前を変え、元の名前もキープするというような実用的な理由もあるようだ。
また、複数のミドルネームを持つのが一般的な文化だから、ということもあるだろう。
ミドルネームはいつ生まれたのか~その起源と歴史
では、ミドルネームはいつから始まったのか。ここでは、西洋圏のミドルネームの歴史について説明していく。
参考にした資料は以下。
- Middle Names: Where’d They Come From?
- Why Do We Have Middle Names?
- Now You Know: Why Do We Have Middle Names?
ヨーロッパでミドルネームが最初に出てきた時期について、主に2つの説があるようだ。
古代ローマ説
1つは、古代ローマだという説。古代ローマの貴族は3つ名前を持っていた。個人の名前(下の名前)、家族の名前、そしてその家族のどこの系列であるのかを示す名前の3つだ。名前が多いほど敬われるという文化があったという。これは基本的に身分の高い男性の話で、女性は2つ(姓と名)、奴隷は1つしか名前を持たなかった。
これをミドルネームの祖とする説もあるが、「これが現代のミドルネームとは機能が異なるので、ミドルネームとは言い難い」という意見もあるようだ。ともあれ、この3つの名前の慣習は、その後忘れ去られた。このリバイバルが起きるのは、以下に説明するように中世の後半になってからであった。
中世が起源説
もう1つは、中世からだという説。中世で最初にミドルネームを持ち始めたのはおそらくイタリアで、13世紀後半であろうとされる。やはりここでも、上流階級の人々からこの慣習が始まった。
1400年代後半までにミドルネームは上流階級で広まり、その後他の階級にも広まった。当時のミドルネームの大部分はキリスト教の聖人の名前で、聖人の名前を子どもをにつければ守護してくれるという信仰があった。
イタリアで生まれたミドルネームは、徐々にイタリアの外にも時間をかけて広まっていった。どこの国でもイタリアと同じように、やはり上流階級から先に広まっていったようだ。
1700年頃になるとヨーロッパ諸国に広まり、特に1800年代には人口が急増したことにより、同じ名前の他者と区別をつけるために、ミドルネームの需要も急増した。またミドルネームを持つことがトレンドにもなったようだ。
しかしイングランドでは導入が遅かったようで、1800年にミドルネームを持っている人は10%しかいなかったという(同じ時期のフランスは40%である)。これは、イギリス貴族がミドルネームを貴族の特権にするために、それ以外の階級がミドルネームを持つことを禁じていたからだった。
アメリカへの広まり
そのため、1600年代にイングランドからアメリカに移民した人々も、ミドルネームを持っていなかった。その後、1700年代にドイツやスイス、オランダからアメリカに移住した人々は、すでにミドルネームが一般にも広まった国から来ており、彼ら自身もミドルネームを持っていた。この移民が、アメリカでミドルネームをもたらすきっかけの一部となったようだ。
アメリカでは1700年代初頭からミドルネームを持つ人が現れ始めた。とはいえ当時は稀であり、アメリカ独立戦争(1775~1783年)の時にミドルネームを持っているのはたった5%だったという。だが1900年までには、ほぼすべてのアメリカ人がミドルネームを持つようになり、現在までその慣習が続いているのだ。
調べてみるとミドルネームはなかなか奥が深かった。この記事が同じ疑問を持っていた方の好奇心を満たせたなら幸いである。
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