エドワードのあだ名はなぜテッド?英語人名の短縮形の謎を解く

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英語

英語圏の名前には、さまざまな短縮形がある。それをニックネームとして、また本名として使っている人は多い。

例としては、Michael(マイケル)をMike(マイク)、Christopher(クリストファー)をChris(クリス)、Jonathan(ジョナサン)をJon(ジョン)など。たいていの場合、これだけでなく1つの名前に対し複数の短縮形がある。

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元の名前とかけ離れた短縮形やニックネーム

だが、元の名前と異なる印象を受ける短縮形も多数存在する。

一例として、Elizabeth(エリザベス)は、Betty(ベティ)Beth(ベス)、Liza(リザ)、Isabel(イザベル)、その他多くの短縮形がある。ややわかりにくいが、これはまだ、元のエリザベスの音の一部をとどめている感じがあるからわかる。

前述したように、現代ではそのまま本名として使われている短縮形の名前も多くある。Lizaという名前で呼ばれる人は、本名がElizabethである人、本名がLizaである人どちらもいるということになる。

ただ、音が元の名前から大きく変わってしまっており、違う名前のようになっているものも多々存在する。

少し例を挙げるだけでも、以下のような感じである。

  • Robert(ロバート)→Bob(ボブ)
  • Richard(リチャード)→Dick(ディック)
  • William(ウィリアム)→Bill(ビル)
  • Margaret(マーガレット)→Peggy(ペギー) 
  • Edward(エドワード)→Ted(テッド)
  • Henry(ヘンリー)→Harry(ハリー)※こちらは短縮形というよりニックネームである。イギリスのハリー王子も、本名はヘンリー。

こうしたニックネーム(もしくは本名)にはイギリスで暮らしていると多く出会うが、なぜ元の名前からこれらの名前が派生したのか謎であった。

そこで今回は、英語圏でこうした元の名前とかけ離れた短縮形が生まれた理由について、調べてまとめてみた。

だが、基本これらの名前は中世からある古い名前を基にしており、その起源を追うのはなかなか難しい。体系的に説明したウェブサイトもあまりなかったが、なるべく信頼できる情報源を元にした。

特に「DMNES(Dictionary of Medieval Names from European Sources)」「HowStuffWorks」の2つのサイトは、辞書や文献をもとに詳細な説明がされていて参考になった。

大きく分けて、「①韻を踏んで文字を入れ替えた」「②他のヨーロッパ言語由来」という2つの理由があるようである。以下で詳しく説明していく。

Edward→Tedの例

こちらは、名前のアルファベットを少しだけ変える中世の風習によるもの。

中世には、下の名前のバリエーションが限られていたので、同じ生活圏に同じ名前の人が複数いることになる。そこで、同じ名前を持つ人々の間で区別を持たせるため、名前の最初の文字を変えて音は似ているが違う読みの名前にする、ということがよくあったという。

特に、Edwardのように母音から始まる名前は、TをつけてTedのように子音をつけると英語話者には発音しやすくなるという効果もあった。

ただ、TedはTheodore(テオドール)というまったく違う名前の短縮形でもあり、異なる2つの名前が同じ短縮形になるという、かなり珍しいものであるらしい。

Edwardの短縮形は、TedだけでなくEd、Eddieなどもある。

Richard→Dickの例

リチャードという名前の起源は不明だが、古英語ではRicheardというスペルであったという。よく似たRicard(リカード)という名前も同じくらい人気で、これらの名前からはRich、Richie、Rick、Ricketなどの短縮形が生まれた。

これらの短縮形を元に、韻を踏んだ文字の入れ替え(RとB・H)が起きた。RichはHitchに、RickはHickやDick、RicketはHicketというように。

HickやDickは、名前の短縮系の中でも最初期に出てきたものだといい、1220年の文献に初出している。

Robert→Bobでも、これと同じことが起きたと考えて良い。

William→Billの例

こちらは諸説あるようだ。

①Williamという名前は元はゲルマン語系のWilhelm(ヴィルヘルムと読み、最初はVの音になる)からきており、それがロマンス諸語に属するフランス語を通じて英語圏に入ってきた。

古いロマンス諸語ではVとBの区別があいまいだったため、WillがBillになったという説。

②アイルランド・ゲール語の規則で「W」が「B」の音になったという説。この変化があるかどうかは、Williamが主語か目的語かによっても変わってくるらしい。

最初にWillamがBillと呼ばれた例は17世紀後半に見られ、アイルランド人が当時のイングランド王ウィリアム3世を嫌い「King Billy」とあざけって呼んでいた記録が残っているという。

③Williamの短縮形Willが、単純に文字の入れ替えによりBillになったという説。

Margaret→Peggyの例

Margaretには、MegやMaggie、Peggyなど多くの短縮形があるが、中でもPeggyはなんでこうなってしまったの? と思わざるを得ないパターンだ。

Margaretの前半部分Margは、方言によってはRをほぼ発音しないMagという発音になる。1200年頃のイングランドでは、Maggeという略称が登場している。そして1200年代の終わりまでに、aの音がeに変わりMeggeとなった。

こうしてMegとなった愛称は、韻を踏んでPがMの代わりに置かれ、Pegとなった。短縮形のバリエーションは複数あり、Magge、Megge、Peggeなどであった。

16世紀の「大母音推移」という英語母音の読み方の歴史的変化により、Peggeの最後のeの発音が、schwaという音(シュワ、「あ」を軽く短く発音する感じの音)から、ee(イー、長く伸ばす「い」)に変わった。

その発音の変化に応じて、MeggeはMeggieに、PeggeはPeggyというスペルに置き換わったのである。

Margaret→Daisyの例

Margaretには、さらにもう一つ、Daisyという驚くべき短縮形がある。

これは、この名前のフランス語バージョンであるMargueriteという名前が、英語でox-eye daisy(フランスギク)という花を意味するものでもあるからだという。

Henry→Harryの例

Henryという名前の起源はフランス語のHenriで、ノルマン・コンクエストでノルマン人がイングランドに上陸した11世紀に入ってきた名前である。

中世のイングランドで読み書きができる人は少なく、HenriをHarryと誤って発音したことにより、HarryがHenryのニックネームとなったという。

John→Jackの例

こちらも、短縮形ではなくニックネームのパターン。Jしか共有している文字がない。

中世イングランドでニックネームをつける時に人気だったのが、Peter→Perkinのように、語尾に「-kin」をつける形であった。その影響でJohn→Jankinとなり、さらにJankin→Jackin→Jackとなったとみられている。


これ以外にも例となりそうな名前は多々あるけれど、これくらいで。

こう見ると、中世から歴史を持っている短縮形やニックネームもかなり多いことがうかがえる。地味だがずっと気になっていたので、謎が解けてよかった。

さて、ニックネームの詳細がわかったところで、西洋圏の名前におけるもう一つの謎「ミドルネーム」についても、次の記事で詳しく書いていきたい。

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