イギリスに死刑制度はなし。現在の最高刑と死刑の歴史について

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ロンドン・イギリス生活

現在、世界的に死刑を廃止する動きが高まっているが、イギリスはかなり早くから死刑を廃止した国だ。
では、現在のイギリスで最も重い刑とは何だろうか? 

この記事では、イギリスの最高刑について、またイギリスの死刑制度の歴史について見ていこう。

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現在のイギリスでの最高刑は終身刑

参考:イギリス政府のサイト「life sentence」、チャリティー団体Full fact「How long do murderers serve in prison?」(2017年発表)

結論から言うと、現在のイギリスの最高刑は刑務所の中で一生を終える終身刑である。

これと似ているものに無期懲役刑があるが、この2つは異なる。

  • whole life order(終身刑)
  • life sentence(無期懲役刑)

前者「whole life order」は残りの生涯すべてを刑務所の中で過ごすというもので、釈放の可能性はゼロだ。これが一番重い罪ということになり、適用される数はごく少ない。

後者の「life sentence」は懲役の長さが最初から決まっていないというもので、裁判官がケースバイケースで懲役の最低期間を決める。平均で16年だという。最低刑期を満たし、審査の結果問題なしと判断されたら出所する可能性がある。
有期懲役を受ける犯罪者の場合、条件を満たすと刑期の半ばで仮釈放されるようだが、無期懲役の場合は最低刑期を満たすまで仮釈放はなしだ。

「life sentence」という語が示すように、出所後も彼らは完全に自由ではない。残りの生涯は監視下に置かれ、行動を見られているのである。そのため、ケースによっては旅行や住居、就職に影響する場合もある。出所後に再び殺人罪を犯した場合は、二度と刑務所から出ることはできない(つまり終身刑が課せられる)。

どんな犯罪に最高刑が適用されるか

殺人を冒したものは、必ず無期懲役刑に処せられる。その他、レイプ、武器を使用した窃盗(強盗)も無期懲役刑となる場合がある。イングランドとウェールズでは、毎年殺人で無期懲役刑に課せられる犯罪者が約300人、2017年時点で無期懲役で服役しているのは約5500人だという。

終身刑はより深刻な犯罪に適用される。

例えば、以下のようなケースが当てはまる。

  • 子どもを誘拐殺人
  • 政治・宗教・人種・思想などが原因の殺人
  • 勤務中の警察または刑務所の看守を殺した場合

2017年時点では、59人が終身刑で服役している。人数は無期懲役囚の1/91だ。

ちなみに、wikipediaには、これまでイギリスで終身刑を受けた囚人の詳細なリストがある(英語)。→List of prisoners with whole-life orders

彼らの犯した罪について読んでいたら気分が悪くなってきたので、ここには書かない。読みたい人はリンク先からどうぞ。

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イギリスの死刑制度の歴史

参考:BBC History Magazineウェブサイトhistory extra「A brief history of capital punishment in Britain

死刑は世界中で古くから行われている最も重い罰である。イギリスでも例外ではなかった。アングロサクソン時代から死刑が廃止されるまで、イギリスでの主な死刑法はずっと首吊りであった。貴族などの位の高い者には、最も苦痛の短い斬首という方法がとられた。

なんでも死刑になる「血の法典」

17世紀後半〜19世紀前半までは、「血の法典」と後世で呼ばれた恐ろしい刑罰法が施行された。死罪となる基準が年代とともにどんどん厳しくなっていき、死刑の対象となる罪状は200を超えたという。法律で締め付けることで、犯罪を少なくしようとしたのである。

5シリング(当時の0.25ポンド)以上のものの窃盗、家畜の窃盗、他人が所有する木を切るなどでも死刑に処せられた公衆の面前で執行されたり、死体を公共の場に見せしめとしてしばらく吊るしておくのもよく見られたという。

「犯罪を少なくしようと」して増えた死刑だったが、人々のエンターテイメントになっただけであった。死刑執行の時には、一般の人々に加え、盗人や娼婦、放浪者などが観客として集まったという。

18世紀になると死刑の数は減少

しかし、18世紀になると、死刑の数は減っていった。裁判官の叙情酌量で、盗まれたものの価値を低く見積もり死刑を回避したりしていたようだ。
また、スコットランド、ウェールズ、その他一部の地域は「血の法典」の施行に消極的で、1830年代までには殺人以外の罪での死刑執行はほとんどなくなった。

また、人権保護の観点から死刑廃止を求める活動も継続的に行われていたという。そして1861年、殺人、大逆罪(王族に危害を加えること)、暴力を伴う海賊行為、王家の造船所への放火以外の罪に対する死刑は廃止された。1868年には、公開処刑も廃止された。

1931年には妊婦の死刑、1933年には18歳以下の死刑が廃止(もともと18歳以下の処刑は1887年以降行われていない)された。

死刑廃止の始まりは1969年、完全廃止は1998年

第二次世界大戦後、死刑廃止問題は議会でも論争の的になり、社会の注目もますます高まった。特に1953年に起きた、ジョン・クリスティーとデレク・ベントレーという2人の男性が冤罪で死刑になった件を決定打として、死刑廃止を求める声は大きくなっていった。

イギリス最後の死刑は1964年である。タクシードライバーに対して強盗殺人を働いた2人の男に執行された。その翌年には5年間死刑執行を停止する法律が議会で可決したが、1969年には死刑廃止が決定された。

それでも、法律上いくつかの例外はあった。暴力を用いた海賊行為や大逆罪には死刑を適用できるとされていたのである。しかし、実際にこれが施行されることは一度もないまま、1998年にあらゆる犯罪行為に対する死刑が廃止となり、イギリスは完全に死刑を排除した国となった。

中世〜近世の死刑も含めた拷問や刑務所の様子についてはこちらを参照(姉妹サイトに飛びます)。

拷問器具も展示、ロンドン中世の刑務所跡地にある刑務所博物館
ロンドンのテムズ川の南岸、ロンドン・ブリッジやバラマーケットがあるエリアの近くには、1144年から1780年まで使用された刑務所があった。イングランド最古にして最も悪名高い刑務所の1つ、「Clink Prison(クリンク・プリズン)」だ。

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