イギリスを統計から見るシリーズ「【統計で見る】イギリスの幸福度は世界19位。どんなことが幸せに影響する?」の続編記事。
この記事では、イギリス国家統計の「幸福度には何が一番関係しているか?」より、仕事・雇用状況と幸福度がどう関連するのかを見ていく。
概要と、興味深かったものを抜粋して訳してある。
元資料:Measuring National Well-being – What matters most to Personal Well-being? (2011~2012年)
目次
統計の方法
この調査は以下の4つの代表的な質問を設けて行われた。
- 全体的に、最近自分の人生にどれだけ満足しているか?
- 全体的に、人生であなたがしていることにどの程度価値があると思っているか?
- 全体的に、昨日どれだけ幸せを感じたか?
- 全体的に、昨日どれだけ不安を感じたか?
これらの質問に回答者は0~10の間で程度を表して回答する。0が「全くない」、10が「完全にある」を表す。
雇用状況の区分
雇用状況は就業者・失業者・非労働力層に分けられる。
非労働力層とは
非労働力層とは、仕事に就いていないが、仕事を探していない又は探せない状況にある人のことを指す。定年退職者、主婦、病気などで職を探せない人などである。
日本でいうニートもここに含まれる。→イギリスのニートと日本のニートの定義の違いはこちらを参照のこと(公開日になったらリンクされます)
雇用状況と幸福度の関係
その他の環境がすべて同じだった場合、雇用状況が幸福度に与える影響は以下のようになる。
- 失業者は、就業者に比べて「人生の満足感」「人生に感じる価値」「昨日幸せだった」の3項目が著しく低く、「昨日不安だった」がより高い。
- 定年退職した人で、「働きたくない」または「働く必要がない」と考えている人は、どの層よりも(自分の仕事に満足している就業者よりも)幸福度が高い。
- 健康状態や身体的な問題により仕事ができていない人は、特に幸福度が低い結果が出た。
- 管理職や専門職についている人はそうでない就業者より「人生の満足感」が高いが、「昨日不安だった」の項目もそうでない就業者より高い。
- 高収入の人は低収入の人より「人生の満足感」は高いが、「人生に感じる価値」「昨日幸せだった」「昨日不安だった」の高低は収入と関連性が見られなかった。
失業者は一番幸福度が低い
仕事は経済的な側面はもちろん、心理的側面、目的意識や社会的地位、社交などの面からも人生で大変重要な要素である。
失業者の「人生の満足感」「人生に感じる価値」「昨日幸せだった」の数値は就業者・非労働力層よりも著しく低く、失業状態はネガティブな面で幸福度に大変強く影響するということがわかる。
失業期間と幸福度の関係
また、失業期間と幸福度の関連性において、失業期間4年までは、期間が長くなればなるほど、幸福度は下がる。
図: 失業期間が幸福度に与える影響
上のグラフは「人生の満足感」「人生に感じる価値」「昨日幸せだった」の項目。
下のグラフは「昨日不安だった」の項目。
0となる基準値は「正社員かつ自分の仕事に満足している人」である。
横軸は左から順に、「(失業期間が)3ヵ月未満」「3ヵ月以上6ヵ月未満」「6ヵ月以上12ヵ月未満」「12ヵ月以上18ヵ月未満」「18ヵ月以上2年未満」「2年以上4年未満」「4年以上」。
失業者の中でも最も「人生の満足感」が低かったのは、2〜4年失業期間がある人であった。これらの人々は、自分の好きな仕事に就いている就業者よりも「人生の満足感」が1.2ポイント低かった。
しかし、4年以上の失業期間がある人は、自分の好きな仕事に就いている就業者よりも「人生の満足感」が1.0ポイント低いだけであった。
ここから、人はある程度自分の置かれた状況に順応していくことが見える。しかし4年以上の失業者も依然として幸福度が就業者より著しく低いことに変わりはない。
(感想)「昨日不安だった」の項目は、なぜか「18ヵ月以上2年未満」、「4年以上」の人は「正社員かつ自分の仕事に満足している人」より低くなっている。不思議である。
仕事の満足度は幸福度に関係するのか?
就業者が失業者より幸福度が高いのはこれまで見てきたとおりだが、他の仕事に就きたいと思っている就業者の幸福度は、失業者よりも低いという結果が出ている。
これはフルタイム、契約社員、パートタイム、会社員、自営業など就業形態に関係しない。
図: 仕事への満足度は幸福度にどう影響するか
上のグラフは「人生の満足感」「人生に感じる価値」「昨日幸せだった」の項目。
下のグラフは「昨日不安だった」の項目。
0となる基準値は「正社員かつ自分の仕事に満足している人」である。
横軸は左から「一時的な雇用で仕事に満足している」「正社員だが他の仕事に就きたいと考えている」「一時的な雇用で他の仕事に就きたいと考えている」。※ここには失業者の数値はない。
(感想)「人生の満足感」「人生に感じる価値」「昨日幸せだった」のグラフでは、正社員でない人でも仕事に満足していればかなり高いようだ。逆に、転職したいと考えている人は雇用形態にかかわらず軒並み数値が低い。
「昨日不安だった」のグラフでは、正社員の人のほうが、一時雇用の人より数値が高い。一時雇用の人は修了機関があったり転職しやすいことから不安感が少ないのだろうか。
就業者と非労働力層の幸福度はどのように違うのか
非労働力層が働かない理由は人により様々である。定年退職者、学生、病気や障害、家族の介護や主婦など、置かれた状況も様々である。
この層のうち、定年退職者が最も幸福度が高く、好きな仕事に就いている就業者よりも高くなっている。しかしその他の非労働力層は、好きな仕事に就いている就業者より幸福度は低い。
つまり、幸福度の高い方から、定年退職者>好きな仕事に就いている就業者>他の非労働力層>失業者>他の仕事を希望する就業者>という順になる。
非労働力層のうち、働きたいが家庭の事情で働くことのできない人は、「人生の満足感」と「昨日幸せだった」の数値が現在の状況に満足している非労働力層よりも低かった。
仕事での立場は 幸福度に影響するか
仕事での立場・役職は、給料、健康の問題などに関係してくるため、幸福度に影響すると見られている。
管理職や専門職についている人は、そうでない就業者より「人生の満足感」「人生に感じる価値」の数値が高かった。だが差はわずかなものであった。
「昨日不安だった」に関しては、管理職や専門職についている人の方が、そうでない就業者よりやや高い結果となった。
だが、この結果を見て単純に「管理職や専門職がより責任やストレスのある仕事をしているから不安感が高い」と結論付けるのは早計だとしている。
「昨日幸せだった」の数値については、役職や職種によって違いは見られなかった。
給料は幸福度にどの程度関係するか?
会社員のみのデータのみで、自営業者は含まれていない。
個人の給料の高さは「人生の満足感」に比例する。しかし、「人生に感じる価値」「昨日幸せだった」「昨日不安だった」の数値は給料との関係性が見つからなかった。
ここで興味深いのは、「昨日不安だった」の項目が給料と関係していない点である。
これは、必ずしも収入が会社からの給料のみではないからかもしれないと、統計元は分析している。給料以外の収入源があれば、金銭的危機は必ずしも起こるわけではないからだ。
世帯収入と幸福度の関連性の統計も出ており、個人収入の統計と結果は似たものになった。
(感想)幸福度は必ずしもお金ではないのかもしれない。ただ「人生の満足感」を得るには、やっぱりお金はあった方がいいのだろうか。
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