パリの狩猟自然博物館はモダンアート・剥製・博物学の入り混じった素敵空間だった

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フランス

パリでたまたま入った狩猟自然博物館(Musée de la Chasse et de la Natur)が、大変面白かった。

動物学や博物学、剥製が好きな人には大変おすすめ。ちょこちょこモダンアートも織り交ぜているのが、感覚と視界を刺激してきて面白い。

もとは17~18世紀のホテルであった建物を改装して博物館にしたらしく、内装や調度品も素敵なので、その観点からも楽しめるはず。

ここでは写真を交えながらその魅力を紹介していきたいと思う。

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テーマごとに分かれた部屋構成が面白い博物館

全部で3つのフロアがあり、1階はチケットカウンターがあるのみで展示はナシ。2階がメインの展示部屋となる。一部屋一部屋は小さめだが、動物ごとのテーマを設けている部屋がいくつかあり、剥製や骨の標本、関連するものが展示されていてわかりやすい。

猪の間

例えばここは、猪の間。猪の剥製がお出迎え。

ちなみに、各部屋には貸し出し用の解説ファイルがあり、フランス語だけでなく英語版もある(日本語版はない)。

これは猪の頭骨。こう見るとなんか後頭部が出っ張った不思議な形状をしている。

猪の間に、暗く小さな小部屋があったので入ってみると……

なんか出てきた!! 

ちなみにこの写真は天井を撮ったものである。天井にはフクロウ(の剥製と思われる)がびっしりいた。ちょっと怖い。なぜ壁でなく天井にしたのだろうか。なんか不意打ちを狙ってくるホラーみたいな不気味さがある。

鹿の間

「ディアナとアクタイオン」 フランス 16世紀

お次は鹿の間。
壁にかけられたタペストリー(織物)には貴族や猟犬と共に、鹿の頭をした人間が表されている。ギリシャ神話の一場面を描いたものだ。

この鹿頭の男は、アクタイオンという猟師で、女神ディアナ(これはローマ神話の名で、ギリシャ神話だとアルテミスと呼ばれる)の水浴びを誤って目撃してしまったため、女神の逆鱗に触れ、鹿の姿に変えられてしまった。

ギリシャ神話の神々は少し怒りっぽいのである。

鹿の間の中央には、日本の現代アート界を代表するアーティストの一人、名和晃平さんのガラスビーズの鹿の作品が堂々と立っていた。中には本物の鹿の剥製が閉じ込められている。

その横のキャビネットには、本物の鹿の角と頭骨が。両端の解説がフランス語で読めないのが残念だが、展示物を見るだけでもかなり興味深い。

狼の間

「善き羊飼い」モラヴィア 1750年

狼の間は、狼の剥製その他が展示してある大変小さい部屋だったが、特に面白かったのがこの彫像。

羊飼いに扮したキリストが、子羊(子羊はキリストの象徴の1つである)を背負いながら、狼を踏みつけている。狼は羊を脅かす存在として、キリスト教芸術では悪魔を象徴するものとして扱われた。

仏教の四天王像などが邪鬼を踏みつける像に似ていると思った。悪を踏みつけるという構図は東西共通のようだ(参考↓)。

鳥の間

ワシやタカなどの剥製が展示されている鳥の間。西洋の鷹匠の彫刻がある。

これは鷹匠が鷹に着けていた目隠し。移動中に鷹を怯えさせないようにするためだ。

猟犬の間

ここは犬、特に猟犬をテーマにした部屋。さまざまな猟犬の絵が展示されている。

犬の名前も併記された、飼い主の愛情が伝わってくる絵画もある。

美しい時計が目をひくが、その下には何らかのコレクションが見える。

近づいてみると、布製や金属製の猟犬用の首輪だった。名前入りの、装飾が施されたかなり豪華な首輪だ。びっくりするくらい大きなものもあるので、これを着けていた犬はどれほど大型だったのだろうと、想像が膨らむ。

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シロクマと記念撮影ができる

ある部屋には、シロクマの剥製が立っており、一緒に写真を撮ることもできる。

この巨大な爪の間に挟まることも可能。ただしかなり鋭いので、服や鞄をひっかけたりしないように注意。あとはもちろん、乱暴に触れないこと。

ハンティング・トロフィーの部屋

この部屋には多種多様な動物のハンティング・トロフィー(猟の獲物の頭部だけの剥製のこと)がずらりと展示されていて、圧巻である。

ライオン(この写真では右側にいる)やトラ、狼、チーターなどの肉食獣も見ることができる。

入口付近の壁にいる、オッコトヌシ様のようなこの白い猪(画像下中央)は、口が動いて何やらフランス語で喋っていた。ところどころこういう謎の細工をしのばせてくるこのシュールな博物館に、私はもう虜である。

ヒグマもいた。シロクマと同じくらい迫力満点。

この部屋には猟銃コレクションも展示されている。

この部屋には見事な動物彫刻群も展示されており、一見の価値がある。

これはライオンが鹿を捉える瞬間を彫ったもの。鹿の断末魔が聞こえるようだ。

こちらは珍しい、ワニが牛? か鹿の草食獣を捕えるところ。ワニのウロコのぬめッとした感じがよく出ている。

アントワーヌ・ルイ・バリー「Tiger devouring a Crocodile」1845年

今度はトラがワニを狩っているシーン。しっかりと前足で獲物を押さえるトラと、逃げようともがくワニの表現は生命力にあふれている。

トラの体にはうっすらとシマシマ模様が彫られている。光が反射して少しわかりにくいが、なるほど、こうした模様の表現もあるのか、と感心した。

この作品が製作された19世紀は、動物銅像が流行し、数多くの作品が作られたのだという。

キャプションがなかったのでいつのものかわからないが、抽象化された形が可愛い、モダンなうさぎ。

ある動物の角だが、鹿系の角は、生え変わりの時期になるとこのように古い外側の角が剥けてくるらしい。そのまさに剥けている途中の角は実際に見たことがなかったので、この標本は大変興味深かった。

鹿の角は骨ではなくて皮膚である。皮膚が角質化し固くなったもの。この様子を見るとまさに「脱皮」である。

狩猟画が多く展示された部屋

次の部屋に行くと、突如謎のモダンアートが表れた。いや作品自体はよくできているのだが、何の脈絡もなくいきなり出てきたのが何だかおかしかった。

鹿の角でできたシャンデリアがとてもオシャレなこの部屋には、さまざまな狩猟画が展示されている。

狩猟画について詳しくは、姉妹アートサイトのこちらの記事をどうぞ↓

動物と静物を描く技術を競った「狩猟画」の魅力を紹介

すみずみまで動物に溢れている館内

博物館内はどこまでも動物の作品で満ちている。これは人間と猟犬が共同で猪を狩っている場面だ。猪に踏みつけられた犬がリアル。

限られたスペースしかない円形の土台に、これだけ多数の要素を躍動感を持って詰め込めてしまえるところに、この彫刻家の技量を見ることができる。

廊下にいた、実物大の雄鹿の彫像。同じ空間にライオンの彫刻もあったのだが、こちらの鹿の方がよほど威厳があり目を引いた。

窓から見える博物館の中庭。建物の壁にも鹿の頭の飾りが施されており、徹底している。

突如よくわからないコダマ的な現代アートが現れる。可愛い。このごちゃまぜ具合がカオスで最高に好きだ。この博物館の魅力の1つだと思う。

美しい内装も魅力の1つ

館内で一番美しかった部屋。ワインレッドの壁紙には狩猟画がたくさんかけられ、また室内の調度品も美しいものばかりだ。

その奥にあった、猪の頭部をスタイルの異なる様式でさまざまに表現した作品を並べた飾り棚。

なんだか異様な迫力があるもの。

シュールさがにじみ出ているもの。

2対1組なのはなぜなのか……。狛犬みたいなものかしら?(多分違う)

この部屋に展示されていた絵画の1つ。静物画のようだが、猫が2匹喧嘩している、珍しい場面を捉えた作品。猫の躍動感と、冷たく固い無機質な金属の質感が対照的な作品。

この後、この2匹はテーブルの上に落下して、並んでいる調度品をめちゃくちゃにしてしまうのだろう。

3階はちょっと謎の空間だった

3階に上ると、「猿の間」があった。だが、他の部屋は空っぽで、なんだかここに入っていいのか、それとも単に展示物がないだけなのか、中途半端な感じであった。

唐突にゴリラの剥製。熊ほどの迫力はない。この部屋には、チンパンジーに人間のテーブルマナーを教えている時の写真(白黒)なども展示されていて、なかなか面白い。

空っぽの展示室を奥に進んでいくと、なんと狩猟小屋の再現が出てきた。

中には入れず、窓から覗くだけだが、なんだか物語に出てきそうな空間でワクワクした。特に動物の頭骨や標本、工芸品などがずらりと並んでいる棚が雰囲気があって好きだ。


というわけで、大満足の訪問となった。この博物館、小さいけど充実度が異様に高いので、こうした分野に興味のある人はぜひ入場してみてほしい。


狩猟自然博物館

住所:62 Rue des Archives, 75003 Paris, France

大人8ユーロ、18歳未満無料

その他、パリ旅行についての記事はこちら。

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