今まで英語を身に着けるにあたって、いろいろと苦労してきたし、現在もイギリスでの生活で日々精進中である。翻訳の仕事にしても、1つ1つが勉強だ。
その中でだんだん「英語を理解する」ということの、自分なりの本質が見えてきたと思う。
今回は、ここでいったん、常々大切だと思っていることを書いておきたい。
言語習得は、言語だけ習得すればいいのではない
言語を習得するには、文法や語彙、イディオム、発音だけを学ぶのでは不十分だ。もちろんこれらがなければどうにもならないので、大切な要素には変わりない。
だが、私は英語を習得するには英語圏の人たちの文化を学ぶことが不可欠だということに気づかされた。なぜなら、自分が知らない文化の文脈で出てくる表現や言葉は、理解できないからだ。
逆の例で考えてみよう。「お疲れ様です」というフレーズは、英語圏にはない。
もし英語圏の人が日本語の「お疲れ様です」を学ぶとしたら、まず「日本には仕事の後や何か疲れる作業をした後に『お疲れ様です』とねぎらい合う文化がある。それも毎日のように頻繁に言う」ということを知らないといけない。
それを抜きにして「お疲れ様です」という言葉だけ学んでも、使う場所も、言われた時の返し方も、リアクションも、どうすればいいかわからないままだろう。
同じことで、日本人が「英語が使えない」要因として、「文化を知らないので、せっかく覚えた英語の使いどころがわからない」「その国のことを知らないので、会話の内容がわからない」という理由も大いにあると思う。
「How are you?」という日本にない文化
英語の例では、誰もが知っているであろう「How are you?」という言葉。学校では「お元気ですか?」の意味で習う。それに返す返事は「I’m fine (and you?)」が典型的な教科書の教えである。これはもちろん間違いではないのだが、この例文だけでは文化は付随しない。
では、How are you?の応用とは何か。これはイギリスでは「こんにちは」「いらっしゃまいせ」の場面でも頻繁に使われる。
スーパーや飲食店に入った時に店員に「How are you?」と言われることはしょっちゅうである。職場に出勤した時、友達と会った時も言い合う。
訊いてきた相手が店員やあまり深くない知り合いの時は「good/great/fine/not bad」などと答える。リアルな「お元気度」を答えるわけではなく、社交辞令の返しである。
そしてその後に「how are you?」と相手にも訊き返すのが普通だ。それがお決まりの文化だからである。
仲の良い友達や同僚に訊かれたら、「I’m a bit tired/so-so/I’ve got a cold(ちょっと疲れてる/まあまあ/風邪ひいちゃった)」などと正直に答えることもある。
「how are you?」と訊かれる文化は日本にはない。だから、学ばなければ返し方を知らない。教科書の「I’m fine (and you?)」は、とりあえずこれを言っておけば、どこでも変には思われないだろうという最大公約数である。
でも実際の生活では、「How are you?」1つでも、相手によって返し方も変わってくるし、身振りや手ぶり、表情なども違うのだ。それは言語表現のみに収まることではなく、文化そのものである。
そしてそれを知っておいた方が、より自然に、より豊かな表現ができるようになる。
イギリス特有の表現として、「How are you?」と同じ意味で「Are you alright?」を使うこともよくある。これはイギリスで生活しないとなかなか気づかないことだ。この答えは「Yes/ Yeah」でいい。
How are you? が出てくると思って身構えていたら全然違うこのフレーズが出てきて、最初は意味がわからない人もいると思う。英語学習はこんなことの繰り返しだ。
スーパーで「How are you?」が終わり、お金を支払って買い物を終えた後、今度は「Thanks, Have a good day」が待っている。
これは店員から言われることが多く、「Thanks, you too(ありがとう、あなたもね)」というフレーズを返すのが通例である。もちろん自分から「Thanks, Have a good day」を言ってもいい。
このHave a good dayのバリエーションとしては、a dayの部分が、weekend/easter/christmas/eveningなどに、goodの部分がlovely/nice/happyなどに変わったりして、いろいろなフレーズになる。
「Have a lovely weekend」「Have a happy Christmas」「Have a nice evening」などというように。
こういうフレーズを、行事や季節に合わせて言えるようになったら、表現に色がつく。
上では簡単な挨拶を例にしたけれど、こうしたことは他のあらゆるフレーズや表現、またビジネスシーンでも同じである。
文化を共有した方が楽しんで学べる
また、英語圏の映画を見たり本やニュースを読む場合に、出てくる固有名詞、その国の地名や芸能人、皆が使うお店の名前、商品名などがわかると、読むのもずっと容易に、そして楽しくなる。とイギリスでしばらく過ごして気づいた。これは日本にいるだけでは習得するのは難しいけれど……。
知らないものをイチから理解しようとするより、知っているものをさらに理解する方が楽だろう。それは当然だ。「文化を知る」ことは、この「知っているもの」を増やしていく作業なのだ。
文化を学ぶにはどうすればいいのか
身も蓋もないけれど、やはり「その国で暮らす」のが一番早いことは間違いない。日常生活に必要なフレーズなんかは、机の上で学習しているよりも余程早く覚えるし、「この場面ではこういう言葉を使うんだな」というのも、すぐに慣れる。
英語の習得度として効果があるのは、英語圏の映画やドラマを見る<<<日本に住んでいるその国出身の人と触れ合う<<<<<<<その国に滞在する という感じだろうか。
やはり、できるだけ生の文化に触れたほうがいいのは確かだ。
とは言え、映画やドラマを視聴するのが意味がないわけではない。ゼロよりはるかにいい。見続けていたら、「こういう場面でこのフレーズはよく出てくるな、お決まりなのかな」「こういわれたらこういう反応をするんだな」というのが徐々に記憶に積もってくる。それは文化の理解の芽である。
文字だけの本は学習初心者にはあまりおすすめしない。その理由はこの記事で述べている。
また、この記事で述べてきたように、言語は文化である。文化の数だけ、人の数だけ、違う英語がある。あなたが学ぶ英語は、あなたが見るもの、聞くもの、触れるものに大きく左右される。以下の記事でそのことについて書いたので、こちらもぜひ目を通してほしい。
日本にいて海外の文化を学ぶのは簡単ではないけれど、英語学習をする時には、「文化も学ぼうとする」という意識を持つことが大切なのだ。
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