イギリスにも「母の日」はあるが、日本とは時期が異なる。日本では5月の第2日曜日だが、イギリスでは3月に設定されている。
現在でこそ自分の母親への感謝を表すものとして祝われているが、イギリスでは、その起源や元の意味合いは異なるものだった。
ここでは、BBCの記事や大英図書館の解説記事などに基づき、イギリスの母の日についてその概要と簡単な歴史を紹介していきたい。
イギリスの「マザリングサンデー」
日本の母の日はアメリカから伝わった習慣で、ある教会で1900年代初頭に行われた儀式が元になっているという。そのため日付も日本とアメリカで同じだ。
だが、イギリスでは母の日の始まりはさらに古く、中世にさかのぼる。「マザリングサンデー」と呼ばれ(現在ではマザーズデーの方がよく使われている)、キリスト教の祭日が起源となっている。
マザリングサンデーは、復活祭(イースター)の3週間前に行われ、年によって日付が異なる移動祝日である。復活祭はイエス・キリストが磔刑にかけられた後に復活したことを祝うもので、西方教会では毎年3月22日~4月25日の間となる。母の日はその3週間前であるから、ほとんどの場合3月に迎えることになる。
「マザリング」は「母親」のことではない? マザリングサンデーの歴史
このマザリングサンデー、元々はマザー・チャーチ(母教会)に行く日を指していた。
キリスト教には、復活祭の46日前から復活祭当日まで、「レント(四旬節)」という期間がある。中世には、このレントの第4日曜日に故郷を離れた人々が家族の元に帰省し、地元の母教会を訪れる習慣ができた。
母教会とは、自分が生まれた時に洗礼を受け、ずっと所属し通った教会を指す。成長して地元を出た場合、移住先では違う教会に通うことになるが、その人にとっての「母教会」は、故郷でずっと訪れていた教会なのである。
当時、子どもたちは働くために10歳という年齢で親元を離れることも珍しくなかった。この祝日は、遠く離れた家族が集まる大切な行事でもあったのだ。
17世紀頃までに、この母教会を訪ねる行為を「マザリング(mothering)」と呼ぶようになったという。
とはいえ、この日が母親と無関係だったわけではない。出稼ぎに出た子どもたちがこの日に休みをもらって自分の母親(家族)と再会し、シムネルケーキというケーキを手土産とする習慣があったことからもわかるように、母親とのつながりを深める日でもあったわけだ。
また、マザリングとは、母なる教会や聖母マリア、偉大な存在である母親の概念など、さまざまな意味と結びついていたともいわれる。
その後現代になって、アメリカの母の日の影響や商業的な側面もあり、マザリングサンデーは時期はそのままに「マザーズデー(母の日)」に置き換えられていった。ただし、現在も教会によってはマザリングサンデーとして信者を出迎えるところもある。
つまり、イギリスでのマザリングサンデーは、元々は母教会に行きましょうね、という日であった。それが時代が下るにつれ、「自分の母親に感謝を捧げる日」となったのだ。
イギリスの母の日の習慣
母の日が近づくと、街中には「母の日のプレゼント」のセールやキャンペーンを掲げるお店が増える。日本と同じように、母親にちょっとしたプレゼントや感謝の気持ちを込めたカードを渡すことが多い。
日本では母の日の花と言えばカーネーションだが、イギリスではカーネーションに加え、バラやチューリップ、ユリなどの花束が定番としてよく選ばれている。
ちなみに、前述したシムネルケーキは現在では母の日ではなく主に復活祭で食べられているそうだ。
父の日は新しい習慣で、日本と同じ日付
では父の日は? というと、イギリスの父の日はアメリカから導入したもので、マザリングサンデーに比べるとかなり新しい。アメリカで母の日が生まれたのとほぼ同じ1900年代初頭に生まれ、世界中に広まったものだ。
なので、イギリスでも父の日はアメリカや日本と同じく6月の第3日曜日に設けられている。贈り物やカードを父親に贈って感謝の意を示す日だ。
いざ調べてみると、母の日の起源が意外なものだったので面白かった。3月に行われるのはちゃんと理由があったのだ。
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