アムステルダム旅行では、もちろん国立美術館にも足を運んだ。
この旅の目次と、アムステルダムという街の概要についてはこちらから。
国立美術館の外観はこんな感じ。
ここに来た第一の目的は、オランダが誇るバロックの巨匠、レンブラントの代表作「夜警」である。この作品は門外不出かつ、2019年7月から修復作業に入って見られなくなってしまうというニュースもあったため、絶対に現物を見ておかねばと思ったのだ。
それ以外にも、オランダはフェルメールにゴッホ、静物画の巨匠たちなど美術史ではチート並みの大芸術家が揃っている国である。この美術館では、そんな彼らの傑作を一挙に見ることができる。
中はモダンで綺麗なデザイン。
目次
レンブラント「夜警」の実物
さて、Second Floor(オランダでは3階)にレンブラントの展示室がある。この写真の奥に映っている巨大な絵画が「夜警」だ。しかしこの部屋はさすがというべきか、すごい混みよう。
「夜警」というタイトルは後世につけられたもので、当時は黒く変色していたためであるという。実際は昼の光景を描いた絵だ。実際に見た時は、画集やこうした画像から受ける印象より「明るい」というのが第一印象だった。そのタイトルが確かに場違いに思えるほどに。
これがその全体像。
だが、昼だとしたらかなり暗い空間であることも確かだ。しかし、ここで差し込んで数人を照らしている光は、照明ではなくて外から入ってくる日光。
見どころ1:明暗のコントラスト
この影と光のコントラストを強調する技法は、レンブラントの一番の特徴である。
この絵が描かれた17世紀当時、明るさが人物によって異なる群像というのは珍しかった。全員が暗く描かれるか、全員が明るいかどちらかだった。
ここに描かれているのは、市民自警団の人々が出勤する場面。市民自警団とは、各都市のれっきとした軍隊である。
ある者は銃の手入れをしたり、ある者は槍を持ち、ある者は旗を掲げている。太鼓を演奏する人物もいる。
この絵の中で、特にレンブラントが目立たせた人物が3人いる。
そのうち二人は、前面で光を浴びながら堂々と立つ隊長(黒い服)と、副隊長(黄色い服)だ。彼らが持つ杖は権力の象徴である。実在の人物で、レンブラントにこの絵を発注した当人でもある。
残りの一人は、この少女である。
遠目から見るとお姫様のようなのだが、よく見るとちょっと二重顎だし、少し老けているような……? レンブラントの妻の面影があるとも言われている。ちなみにこの作品が完成したのと同じ年に、彼女は亡くなった。
この少女は、大きな爪を持つ鶏を腰から下げている。鶏の爪と、ちょうど彼女の前にいる人物が持つ銃は、この自警団の組織のシンボルであった。つまり、場違いにも思えるこの少女は、組織のマスコットとして登場している。
なぜ軍隊のマスコットをこのような少女にしたのか。男だらけの空間を少しでも華やかにしたかったのか。謎である。
ともあれ、レンブラントは画面内で目立たせる人物、目立たせない人物を極端なまでに区別して描いている。
見どころ2:描き方のコントラストと、異なる質感の描き分け
この少女の周辺を見るだけでもわかるが、物の質感によって、レンブラントの筆致がだいぶ異なるのがわかる。
少女の肌やドレスはきめが細かく、筆致はほぼ見えない。肩部分の装飾など、気が遠くなりそうな細かさである。
一方、手前の男性のそでの衣服の表現は、しっかり筆の跡が見える。
画面右下に描かれた犬の拡大図。未完かと思うほど亡霊のように曖昧である。実際には未完ではないが、この空間を埋めるためだけに描かれたモチーフであるという。
光が当たっている人々と同様、レンブラントが重要なもの、重要でないものをいかに明確に自身の中で区分けしていたかが見えるいい例だ。
また、右端に見えているつるんとした太鼓の見事な質感も注目したい。犬より太鼓の方が力が入っている。
見どころ3:完成当初とのトリミング・加筆が(実物で)比較できる
これはアムステルダム国立美術館ならではだろう。
実は現在見られる「夜警」はだいぶ改変が加えられている。幸い、17世紀当時の「夜警」をそのまま模写した画家がいた。
この模写は、美術館内で「夜警」の横に飾られていた。大きさはオリジナルと比べるとかなり小さい。
白線(実際の模写作品には白線はない。これはwikipediaから拝借した画像である)の部分が、今はなきオリジナルから削られた箇所。
展示場所を移す際に、新しい展示場所にサイズがフィットしなかったため削られたという。な、なんてこと……
そしてその削られた部分は保存されていないという……なんてこと!!
あと、黄色の衣服を着た副隊長の上方にある飾りの盾も、ここでは見当たらない。実はあの盾は、約10年後に後から付け加えられたもの。18名の団員の名前が書いてあるのだという。
実はこの作品、本来の所蔵先はロンドン・ナショナル・ギャラリーであるという。イギリスに来て4年、一度も見たことがないが、ずっとアムステルダムが借りている状態なのだろうか。
レンブラントの狩猟画
さて、ここからは同じ美術館内の「夜警」以外のレンブラント作品を紹介。
珍しいレンブラントの狩猟画。暗い雰囲気の絵だが、孔雀には光が当たっている。あんなに色とりどりの孔雀も、レンブラントの手にかかるとこんななるのね、と思った。カラフルさはあまりないが、ふわふわとした羽毛の重なりは見事。
ちなみに、この当時は孔雀はよく食べられていたらしい。これは逆さに吊るして血抜きをしているところ。
狩猟画ってなーに? という人はこちらを参照。
レンブラントの自画像
自画像をよく描いたことで知られるレンブラント。これは聖パウロの格好をしている。聖人になぞらえた自画像はこれが唯一。手に持った写本と胸元から覗く剣はパウロの持物である。
顔がはっきりと明るく後の部分は闇に溶け込んでいる、雰囲気ある作品だ。
若かりし頃の作品
「初期のレンブラントの作品」に特化した部屋があった。ここでは、オランダの画家らしい、レンブラントの写実的な細密画を見ることができる。
先ほどの自画像より33年前のものである。レンブラント22歳の頃の作品。
髪は一本一本描写されているかのごとく精緻で、また顔は暗く、光は頬の一部のみに当たっている。見ていると、この自画像の目がこちらを見ていることに気づく。実験的な思惑が窺える。
聖書によると、彼女は84歳でキリストに出会い、エルサレムの人々にキリストのことを伝えたとされる。なので、老女の姿で描かれることが多い。
ここでは、ぼんやりとアンナをテラス柔らかな光もさることながら、手の皺の表現に感動してしまった。
これ以上ないくらい写実的である。実物はとても小さい絵なので、近づいても肉眼で皺の一本一本が見えるかは危うい。ただ、手だけで確実に彼女が老人だとわかる、雰囲気も含めた写実性がこの手に込められていた。
私はこの手に釘付けになっていて、他の細部はよく覚えていない。「手の美術作品」と言ったら今後も彼女の手が思い浮かぶに違いない(もう1つは高村光太郎の手の彫刻だ)。
ここで紹介した2作以外にも、この部屋では多くの初期作品が見られる。レンブラントが若い頃から才能に溢れていたことがわかる、満足度の高い展示だった。
住所:Museumstraat 1, 1071 XX Amsterdam, Netherland
料金:大人17.50ユーロ、18歳以下無料
「夜警」の彫刻バージョンがあるレンブラント広場
アムステルダムには「レンブラント広場」という名前の一角がある。徒歩で行ける距離なので行ってみることにした。
小さい広場なのだが、中央には「夜警」を彫刻で3Dにした作品が。その真ん中に立つのはレンブラントの肖像である。
レンブラントの生誕400周年を記念して作られた群像であるという。レンブラントの生年は1606年なので……2006年の作? かなり最近である。
ものすごい再現度。「絵の中から抜けだしてきたような」という言葉が似合う。
すべてが等身大で細部まで精巧に作られているので、まるで自分が「夜警」の絵の中に入ってしまったかのような感覚になる。ちょっとしたイリュージョンだ。
犬が絵より具象的だ……!! こんな犬だったのか……?
厳かな顔をしているレンブラント像。真面目な顔をしているのに、頭にずっと鳩が止まって休んでいるのがおかしくて撮った。
2019年7月から修復作業に入ってしまうという「夜警」は、修復作業も中継するのだという。
また、2019年は彼の没後350年だということで、アムステルダム国立美術館は彼の作品400点を一挙に見せる大レンブラント展を行うそうだ。おそらく「夜警」修復前に開催するのかな。
レンブラント広場
住所:Rembrandtplein 5, 1017 CT Amsterdam, Netherland
この後、レンブラントが実際に住んだ家も見られるというので行ってきた。「レンブラントの家」のレポはこちらから。
国立美術館内のその他の絵画作品の傑作の紹介はこちらから。
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