世界初の豚の貯金箱はジャワで生まれたのか?起源を調査してみた

2018年4月9日その他アート考察, アート解説・展示レポ

※Photos on this page are with permission of the Ashmolean Museum, University of Oxford
画像は博物館の許可を得て掲載しています。無断転載等ご遠慮ください。

先日、オックスフォードのアシュモレアン博物館に行ってきた。


Ashmolean Museum

住所:Beaumont St, Oxford OX1 2PH

入場無料


面白い展示物で溢れていたのだが、私はそこで特に珍しいものを見つけた。

500年前の豚の貯金箱

500年以上前の豚の貯金箱である。

インドネシア 東ジャワ(マジャパヒト王国) 15世紀 (1401 – 1500年)

現代の豚の貯金箱にそっくりだ。むしろ写実的ですらある。piggy bankという品名と、年代、出土しか書いてなかったので、その他詳細はほぼ不明だった。

ジャワ 16世紀(1500~1600年)

そしてもう1匹見つけた。ここには少し解説があり、「ジャワでは豚は富と力の象徴とされたので、貯金と結びついた」ということだった。

これを興奮のままツイッターに投稿したところバズった。

色々な方から、豚の貯金箱(piggy bank)の起源についてリプライをいただいた。ドイツの豚博物館にも古い豚の貯金箱があるとか、発祥はイギリスであるとか、貨幣はあったのか、こんな小さな穴にコインは入ったのかなどなど、いろいろな知識や疑問がリプライ欄に並んだ。

そこで、このアシュモレアン博物館のものについて調べてみたら、博物館のウェブサイトのページに、ビジネススクールの教授がこの貯金箱について解説しているビデオが見つかった(動画がYoutubeのものなので、Youtubeにもあるらしい?)。

その一部分を抜粋、ざっと意訳してみた。

In the Middle Ages, people stored money in earthware pots made out of clay which was known as Pygg, over time Y became an ‘I’ and pronunciation changed to ‘pig’, hence the shape of the pots.

The first piggy banks did not emerged in Europe but in Java, from which this fine creature came. It dates back sometime in the 15th century and is made out of terracotta.

中世では人々は粘土でできたポットにお金を貯めていました。その土は(英語で)Pyggと呼ばれており、時代と共にYは「I」の発音になっていき、「pig」へと変わりました。それゆえポットの形は豚となったのです。

最初の豚の貯金箱が生まれたのはヨーロッパではなくジャワでした。この作品もジャワ産で、制作年代は15世紀、材料はテラコッタ(粘土)でできています。

この方によると、最初の豚の貯金箱が生まれたのはジャワだったという。しかし、この記事を読み進めてもらえるとわかるが、ドイツにもっと古いものがあるらしい…。

ジャワから西洋に広まったのか?

上記の発言を考察してみよう。

1段落目→これはリプライでも何人かが言及してくれていた。材質の名前が、形を表す名前に変化したのだ。これはイギリス(英語圏)での起源である。

2段落目→これによると、世界初の豚貯金箱は、ジャワから出てきているらしい。

この時点では、1段落目と2段落目の相関関係は不明である。世界初の豚貯金箱がジャワでできたとして、それが西洋に伝わったのかは言及されていない。

ので、もっと調べてみた。

イギリスの事例

すると、イギリスのpiggy bankの由来についてさらに情報が見つかった。The Financial Brand という経済関係のメディアに説明があった。

それによると、pygg bank(陶土で作られた貯金箱)は600年頃からすでにあった。時と共に英語の発音が変化し、「陶土(pygg)」と「豚(pigge)」は同じ発音になっていき、だんだんと「陶土」の方は忘れられていった。
そして19世紀、イギリスの陶芸家が「pygg bank」の注文を受け、豚の形の貯金箱を作り、それが広まったというのだ。

これを考えると、ジャワの豚貯金箱がイギリスに直接伝わったわけではないのだろう。

だが、ドイツにはもっと古くから豚貯金箱があったらしい。

ドイツの事例

これはツイッターのリプライで教えていただいたのだが、この記事によると、ドイツ最古の豚貯金箱は13世紀のものと思われる品が見つかっている。イギリスで豚貯金箱が作られるよりはるか前だ。むしろジャワより前である。ちなみに豚はドイツ語でSchwein(シュバイン)。

この豚がほんとに13世紀生まれだとすると、年代順としては【13世紀ドイツー15世紀ジャワー19世紀イギリス】だ。ジャワのは世界初ではないのか。先ほどの教授の発言はなんなのか。ただ、動画にある貯金箱が最古と明言されているわけではないし、13世紀より古い豚貯金箱がジャワにもあるのかもしれない。

ドイツでも豚は豊饒と強さの象徴であり、豚の形の貯金箱が使われるようになったという。

調べてみたが、このドイツとジャワの豚貯金箱の関係は不明であった。実際どちらが世界初なのかも私にはわからない。だが、違う場所で(ほぼ)同時発生的な現象なのではないか、と個人的には思う。

中国の事例

では東アジアにとっての文化の大動脈、中国はどうなのかというと、やはり中国にもある程度古くから豚の貯金箱が存在していたようだ。

このリサーチをしているうちに、豚の貯金箱をコレクションしまくって考察しまくっている超マニアックなオランダ人コレクターのサイトを見つけた。この世界はあまりにも広すぎる。

しかし、このサイトが一番論理的にわかりやすく説明している感じを受けた。

これによると、ジャワの豚貯金箱の歴史は14世紀から、ドイツは13世紀から、そして中国は清の時代(1644~1912年)から始まっているという。中国でもやはり豚は富の象徴であり、そしてやはりジャワとの関係性は不明だ。

起源に関する考察まとめ

  • 「世界初」の豚貯金箱はドイツかもしれない
  • アジアではジャワの豚貯金箱が初だった説が濃厚
  • 世界で複数の発生地を持つ可能性が高い(と個人的に思う)

私が以上のリサーチから出したまとめはこんな感じ。とは言え、ジャワ→中国や、アジア⇔ヨーロッパの伝播も可能性としては十分あり得る。だが少なくともイギリスは、pyggの説が本当ならば、他のどの国ともあまり関係なさそうだ。

まあ本当のところはわからない。しかし、違う国で同じ用途・形のものが偶然生まれたのだとしたら、なんて面白いのか。

今回の調べ物は大変だった。なぜなら、英語ではpiggy bankは豚の形をしていない普通の貯金箱を指すのにも使われていて、「豚の形をした貯金箱」と情報がごっちゃになっているからだ(これも調べている途中に気が付いた)。情報が少なく、しかも国ごとに例がばらばらで体系的にまとまったものがほぼない。ほとんど英語で調べたのだが、「ドイツ語と中国語ができれば…!」とも思った。

その他豚貯金箱に関すること

開ける場所はあるのか

動画でも説明されているが、この豚貯金箱には取り出し口はない。

なので、現代のものと同じように、もしお金を取り出したかったら、割らなければならない。それゆえ、現存する豚貯金箱はとても貴重だという。

日本へ広まったのはいつから?

調べてみたけれど、日本でどうやって生み出されたのか、一番古いのはどれなのか、情報が見つけられなかった。アジア経由でも西洋経由でもありえそうだし、古くからあるのか、現代で普及しただけなのかよくわからない。

蚊遣器との関係は?

蚊遣器とは、蚊取り線香を入れる豚の形の器のことだ。
これも不明である。不明不明ばかりで申し訳ない。

ただ、ざっと調べたところ、一番古いとされる蚊遣器はこちらの江戸時代末期(19世紀)のもののようだ。これと豚貯金箱、日本ではどっちが古いのか。謎は深まる。

ジャワには15世紀当時コインはあったのか?

Wikiによれば、インドネシアで一番古い硬貨の記録は8世紀後半なので、15世紀にはすでに硬貨が使われていたと思われる。ちなみに、ジャワは他のアジアの国との貿易で繁栄した場所であり、貿易が盛んになるにつれて、ジャワ社会で使い勝手のいい貨幣の需要が増したのだとか。

また、10世紀終わりごろから中国の宋銭が多く流入し、14世紀までにはかなりの量の宋銭が流通し、公式通貨と国が認めるくらいになっていたというから、豚貯金箱に貯められていたのは宋銭だったのかもしれない。


他にも、このアシュモレアン博物館には面白いものが数多く展示されていたので、別の記事にまとめたよ。


Ashmolean Museum

住所:Beaumont St, Oxford OX1 2PH

入場無料