V&A美術館のよりすぐりの彫刻を紹介するよ

2017年12月4日

ロンドンの代表的な美術館のひとつ、ヴィクトリア&アルバート美術館。

絵画、彫刻、アジア~欧米、アフリカまで、あらゆる美術品が展示されている。

その中でも、訪れた人が最初に目にするのは、この「彫刻の間」だろう。サウス・ケンジントン駅から地下直通でつながっているエントランスから入ると、この部屋に最初にたどり着く。

ここには素晴らしい作品ばかり集まっていて、選ぶのは難しいのだが、例によって独断で紹介していく。

画像はすべてhttp://collections.vam.ac.uk/より。


V&A Museum

住所:Cromwell Road, London, SW7 2RL


V&A美術館21~25室、彫刻の間の傑作

この記事では21~25室の彫刻の間に限定して作品を紹介していくよ。他の部屋にも彫刻はあるのだけれど、紹介できるほどまだ見てないので今回はナシ。

 

子供にお乳をやる女性

エメ=ジュール・ダルー「子供に乳をあげる農婦」(1873 年)

50㎝程度の石膏バージョンがパリの「Le Petit Palais」美術館に所蔵されている。 
テラコッタの彫刻で、母親の慈愛に満ちた顔がとても綺麗。赤ちゃんがつかんでいる胸の表現や、しっかりと赤ちゃんを抱く、ややどっしりとした腕がリアルだ。

女神でも聖人でもなく、庶民の女性をこんなに美しく彫り上げるのは見事と言うほかない。最初に見たときはマリア像かと一瞬思ったくらいだ。マリア像を意識して意図的に作られているのだと思うけど。

頭が牛、体は人間の「ミノタウロス」を倒す男

アントニオ・カノーヴァ「テセウスとミノタウロス」(1782年)

怪物ミノタウロスを退治し、アテネを救ったテセウスの像。ミノタウロスは体が人間、頭が牛の怪物で、この彫像では筋骨隆々の人間の体を持っている。

でも頭は完全に牛。再現性が高い。
ミノタウロスの下の、岩の重厚なごつごつ感と、人体の滑らかさの対比がよく表されている。

この作品が、彫刻家カノーヴァの名声をおしあげる代表作となった。

超絶技巧の衣服の透け具合を見よ

ハモ・ソーニクロフト「ロトの妻」(1877~78年)©Yair Haklai

「旧約聖書」のロトの話を題材にした彫像。神がソドムの街を破壊することにしたとの宣託を受け、ロトは妻、娘とともにソドムを脱出する。「逃げる際に後ろを振り返ってはいけない」と指示を受けていたが、妻が思わず振り返ってしまい、「塩の柱」となってしまった。

この像は、まさに今ロトの妻が振り返り塩の柱となってしまう瞬間なのかもしれない。

しかしこの見事なドレスの表現はどうだ。優美に流れる布のひだの一つ一つが過剰なまでに彫られている。

足元に広がるひだの薄さ。本当にこれは石なんだろうか。見ても納得できない。作家はここぞとばかりに自分の技術を発揮する媒体にしたんだろう。

本当に薄い石の中に人体がそのまま入っているかのよう。超絶技巧という他ない。

人魚のような乙女「イヴ」

エドワード・ホッジス・ベイリー「アダムの声を聴くイブ」(1842年)

人魚姫のような乙女像を発見した。ポーズだけだけど。

2人がまだ楽園であるエデンの園にいた頃、イブが、アダムと初めて会い声を聴くシーン。ジョン・ミルトン小説「失楽園」の中の2人の出会いのシーンからインスピレーションを受けて作られた作品だそうだ。

あの有名な渡辺淳一の「失楽園」とは違い、こっちの失楽園はもっとキリスト教的な読み物で、アダムとイブの楽園追放を書いた作品。

このイブはイノセントな雰囲気がたまらない。

壁から飛び出る女性の頭

ジェームズ・シャーウッド・ウエストマコット「アーティストの娘」(1870年頃)

小さなレリーフ(浮彫)の作品。小さいけれど結構迫力があって怖い。

ミステリアスなこの作品、モデルは彫刻家の娘コンスタンスであろう、ということしかわかっていない。頭部だけなのに圧倒的な存在感があるのと、広がった髪の表現が額縁から飛び出してくる様子を見事に表現していて、絶妙に不気味だ。

なんでこの作品はこんなに不気味なのだろう?と考えてみたが、どうやらリアルすぎて「頭だけがこっちに向かって飛んでくる」イメージになるからだ。なんで頭だけ彫ったのだろう?せめて肩までとか、上半身だったならそこまで不気味でもなかっただろうに。

仲良し美少年たち

ジョージ・レニー「ヒュメナイオスの松明に火をつけるクピド」1831年

あまりしっかりした説明がなかったのだけど、左が結婚の神であるヒュメナイオス、右の翼があるのが愛の神クピド(キューピッドね)だと思う。
ヒュメナイオスは人の欲望に点火する象徴として松明を持っている。クピドがその松明の火を燃え上がらせようと、風を送っている?場面らしい。

とても綺麗な美少年2人ということで目に留まった。ギリシャ彫刻みたい、と思っていたら、作者のジョージ・レニーは古代ギリシャ彫刻の様式をまねた作風だったらしい。納得。

古代ローマ軍人の衣装を着ている男性像

ジョン・マイケル・ライスブラック「トマス・ウェントワースの肖像」(1740年頃)

古代ローマの軍人風の衣装を着た男性像。まるでカエサルのようだが、モデルはイギリス貴族で政治家だったトマス・ウェントワース。

このウェントワースは、当時の国王チャールズ1世の側近となり、北イングランドで専制政治をしていたという。だがスコットランドとの戦争に敗れ、チャールズ1世は賠償金をスコットランドに払わなければならず、資金も尽きていた。

この責任をとらされることになり、ウェントワースは1641年に処刑された。

この彫像が作られたのは100年後だから、死後に肖像が作られるくらいには称えられた人物なのだろう。と思ったが、死後の評価は割れているらしい。残忍で冷酷な人物だったという言い伝えが多く残っているようだ。

当時は波乱の世情で、ある程度の残忍さがないと政界では生き残れなかったとされる。今の政治家も皆そうかもしれないけど。

この彫像のように、いつも武装し張りつめていないと務まらないものだったのかもしれない。

嘘の舌を引っこ抜く「真実」の女性

アルフレッド・スティーブンス「真実と欺瞞」(1857~66年)

これは「真実」の化身である女性像が、「欺瞞/嘘」の化身である男性像の舌を引き抜いている場面。

「欺瞞」の下半身は蛇になっていて、顔には仮面をつけている。

この対となる彫像で、「勇気と臆病」の作品も同じ部屋にある。

この石膏像「真実と欺瞞」「勇気と臆病」は、セント・ポール大聖堂のアーサー・ウェルズリー (初代ウェリントン公爵)の墓の装飾として配置されているブロンズ像と同じものだ。もちろん同じ作者である。大きさも同じであるらしい。

ダイナミックなこの巨大彫刻は、「動き」に溢れている。「ロトの妻」や「イブ」が静であるなら、こっちは「動」の作品だ。劇的な構図なのに、よく安定したバランスに仕上げたものだなあ、と感心してしまう。

見事な半浮彫りの天使

アーノルド・クェリヌスとグリンリング・ギボンズの共作とされる「アイルランドの国章と王冠を持つプットー」(1686年頃)

浮彫の天使。手にはアイルランドの王冠と国章を持っている。

アイルランドの国章はこのように金の竪琴が描いてある。

とってもキュートかつ、翼の繊細な彫り具合が素晴らしい。丸々とした幼児の体型もよく再現されていて、触りたくなってしまう。

「プットー」とは天使のこと。西洋での天使の呼び名は「プットー」「クピド」「エンジェル」と色々あるが、「プットー」は小さな裸の天使を指す。クピドはギリシャ神話に出てくる天使のこと。

クピドは厳密には天使ではなく、「愛の神」なので、同じくくりではないみたいだけど、翼をもった若い人形(ひとがた)で描かれることから天使と同一視されている感がある。

エンジェルはキリスト教のその他の天使…かな?ちょっとよくわからないので、勉強が必要ですね。

リアルなおでぶさん

アゴスティーノ・カルリーニ「ジョシュア・ワードの肖像」(1760~64年)

おでぶさんとか言いきってしまったが、ロンドンの医者であったジョシュア・ワードの彫像だ。安息香チンキを発明した人らしい。

そんな素晴らしい実績を持つ医者に申し訳ないのだが、「太ってる人の脚のパツパツ具合がよく再現されてるな~」と感心してしまったので、紹介してみた。

上半身の服のパツパツ具合もとても気に入っている。よくまあこれだけ本物の衣服みたいにしわを彫れるものだ。何枚も重なった服のレイヤーを全部見事に掘り起こしていて、どんな服を着ているのか細部まで鮮明にわかる。

髪型は当時の流行だからいいとしても、こういう人、こっちにいるいる。たまに見るわ~となんか親近感を覚えた。

すごい服装のまま寝る夫婦

ニコラス・ストーン(父)とされる「サー・モイル・フィンチと妻エリザベス」(1615~18年)

一番奥に横たわっているこの彫像、実は棺桶の上に寝ているのだ。モデルはモイル・フィンチというイギリスの政治家。とその妻エリザベス。

棺桶の下部には彼らの12人の子供たち(!)の名前が周りにぐるりと彫られているという。

枕はとても柔らかそうだけど、フィンチさんはこんな衣装で寝て苦しくないんですかね…。身体が浮き上がっているのがちょっとおかしい。

妻は割とゆったりとした服装で心地よさそう。棺桶に入っている本人はどんな格好をしているんだろうか。

彼の死んだ翌年にこの彫刻が作られた。もともと、この棺桶はイングランドの東側、ケントにあるもう壊れてしまった教会にあったという。


この「彫刻の間」にある作品はどれも素晴らしいものばかり。同じスペースにロダンの作品群も並んでいるので、一緒にぜひ見てほしい。

 

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