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謎に包まれた騎馬民族「古代シベリアのスキタイ人」展@大英博物館

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謎に包まれた騎馬民族「古代シベリアのスキタイ人」展@大英博物館

大英博物館で先日始まった特別展、「Scythians: warriors of ancient Siberia(スキタイ人:古代シベリアの兵士たち)」(~2018年1月14日まで)に行ってきた。

紀元前に大陸を征服した、謎の騎馬民族スキタイ人の生活を解き明かす展示。そのハイライトを、ここで紹介していこう。

※画像のコピーライトは、表示がないものについてはすべて© The State Hermitage Museum, St Petersburg, 2017. Photo: V Terebenin.

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スキタイ人とは何者なのか?

スキタイ人とは特定の民族を指すのではなく、イラン語を話し、同じような生活をしている複数の遊牧騎馬民族の総称である。紀元前800~200年に繁栄し、シベリアで、南中国から黒海まで領土を広げた。

シベリアは地球の地表の10%を占める広大な地域だ。そのほとんどは氷か森に覆われており、スキタイ人はステップと呼ばれる平原に暮らしていた。

定住することはなく、テントで暮らしながら馬に乗って移動を続ける生活だった。

Scythians cultural map A map of Eurasia by Paul Goodhead

この図の黄緑色と緑色の部分が、スキタイ人が征服した領土だ。右側にChinaの文字、そして左側には黒海(black sea)が見える。黒海は今でいうトルコの真上にある。どれだけスキタイ人の活動範囲が広かったかわかるだろう。

赤色の部分は、当時ペルシャで覇権を握っていたアケメネス朝の最大版図である。

残っているものは墓だけ

彼らは文字を持たなかったため、民族の中での文献などは何も残されていない。スキタイ人の存在は、歴史上長い間忘れられてきた。

Landscape 2 Southern Siberia landscapes with burial mounds © V. Terebenin

だが1720年代に初めてスキタイ人の墓地が発見されたのをきっかけに、研究が始まった。上の写真はそのうちの一つである。墓の出土品は唯一の資料であり、そこからスキタイ人の生活、文化を読み解く研究が続けられてきた。

彼らは優れた馬使いであり、勇猛な兵士でもあり、また熟練した手工芸職人でもあった。

スキタイ美術:金細工の装飾品

Funerary scene A gold belt plaque of a Scythian funerary scene 紀元前4~3世紀

スキタイ美術で特徴的なのが金細工である。金は太陽、そして高貴な力のあらわれであった。

これは2300年前に制作された、位の高い人が所持していたベルト用アクセサリーで、葬式の場面をモチーフとしている。

死んだ男性に寄りそう女神が左に、そして生命の木を挟んで馬使いと2頭の馬が右側にいる。生命の木には、男性の矢筒(矢を入れるケース)が吊るされている。スキタイ人男性は、結婚したい女性のワゴンに自分の矢筒をつるしておくという習慣があったという。

このことから、この場面は、死んだ男性と「グレートマザー」の結婚を示唆しているのではないかと見られている。グレートマザーとは、命を与え、また死後の世界にも通じている母なる力のことを指した。死と新たな生命の誕生には欠かせない存在であった。

スキタイ人の考える「3つの世界」

研究者によれば、スキタイ人は3種類の世界を信じていた。

1つは、鳥のいる天国、2つ目は人間のいる中心世界、もう1つが超自然的な獣がいる死後の世界だ。

動物のモチーフから見る独特の世界観

スキタイの美術品には、動物のモチーフが多く使われている。本物の動物と想像上の動物を組み合わせて、様々な表現が生み出された。

Gold panther Gold plaque in the shape of a coiled panther 紀元前4~3世紀

モチーフになる動物は、大きく3種類にわけられる。猛禽類、草食動物、肉食獣だ。

このハート形をしたヒョウは、その中の肉食獣にあたる。これは馬の頭にとりつける頭絡(ひも状の馬具のこと)の留め金として使われていたとされる。円形の穴には、ターコイズなどの色鮮やかな石がはめられていた。

この展示では、フェルト製の鶏のぬいぐるみも見られたのだが、現代のものと言われてもそん色ないほど、デザインも仕立てもしっかり作られていた。その顔の表現なんか見ていると、人間の美的センスは数千年前と現代で何も変わっていないのだな、と感じた。広報用の写真がないので載せられないのが残念だが…。

スキタイのグリフォンはどこから来たか

スキタイ人はグリフォンの概念を持っていなかった。グリフォンとは、ワシの上半身とライオンの下半身を持つ空想上の動物である。

参考↓


しかし、ある時点からグリフォンのモチーフが装飾に登場するようになる。ギリシャ文化にあるグリフォンをスキタイ人が取り入れるようになったのだ。

ではギリシャ文化はスキタイ人とどこで接点を持ったのか? そのカギを握るのは古代マケドニアのアレクサンドロス大王である。

紀元前329~328年、大王が中央アジアへ遠征した際、スキタイ人と衝突した。結果はアレクサンドロスの勝利であったが、この接触でギリシャ文化が中央アジアへ伝わり、グリフォンの図像も知られるようになったのである。

アレクサンドロスはこの後もインド方面に遠征し、結果インド文化とギリシャ文化の融合を起こすなど、文化の伝播にも多大な貢献を果たした人物である。ガンダーラ地方では、西洋人のような顔のブッダ像がたくさん発見された。→V&A美術館・仏教コーナーには変わったブッダや面白い仏像がずらり

スキタイ人の生活

スキタイ人の生活については、古代ギリシャの歴史学者ヘロドトスが詳しく文書に遺している。

常に移動していたため、持ち物は最小限で、必要なものはすべて家畜から作った。

Table Collapsible table with lathe-turned legs 紀元前4~3世紀

このテーブルも持ち運びに便利な折り畳み式で、脚の凸部分を、円形の板の凹部分に差し込み組み立てることができた。脚には手彫りで器用なパターンが刻まれている。

食生活はミルク、バター、チーズなど乳製品が主で、肉はマトンを中心に馬、牛なども食べていた。肉は干したり燻製にしたり、凍らせたりして保存した。また動物の骨は火をおこす燃料としても使った。

定住している他民族と、金細工や動物の皮や骨から作った日用品をトレードし、逆にスキタイ人が作ることのできないワインや陶器などを受け取っていた。西側で活動したスキタイ人たちは、ギリシャのワインをよく輸入していたことがわかっている。

一方、他民族との縄張り争いも頻繁に起き、戦いが多い厳しい生活を送っていたとされる。スキタイ人は相手を攻撃するのに毒矢を使っていた。

騎馬民族にとっての馬の重要性

Scythian rider A gold plaque depicting a Scythian rider with a spear in his right hand 紀元前4世紀

動物の中でも、馬はスキタイ人の生活に欠かせないものだった。乳や肉、毛皮を与えてくれるだけでなく、重要な移動手段であり、戦闘のパートナーでもあった。

馬はよく世話され、15年ほど生きたという。

この作品は、右手に槍を持った男性が馬に乗って駆ける姿を写実的に表している。走る馬の躍動感あふれる表現は、職人の鋭い観察眼、そして馬がどれほど身近な存在だったかの表れでもある。

飼い主の葬式では馬も一緒に埋められる

ゆえに、馬とその飼い主の絆は重要視された。

Horse head gear Horse headdress made of felt 紀元前4~3世紀

飼い主が馬より先に死んだ場合、その馬も屠られ一緒の墓に埋められることもあった。死後の世界でも、馬は自分の飼い主を背に乗せ続けると信じられていた。

この木と皮でできた馬用のマスクは、死んだ馬が死後の世界で、幻獣に姿を変えられるようにするためのもの。頭に山羊と鶏をかたどった装飾が施されているが、その他にも様々なバラエティがある。

位の高い人の葬式では、馬だけでなく奴隷も一緒に殺され埋められたそうだ。

オシャレも充実していた?

この展示では、家畜の骨から作ったイヤリングやネックレスなどのアクセサリー、男女別の衣服も展示されていた。

Tattoo Part of human skin with a tattoo.
From the left side of the breast and back of a man 紀元前4~3世紀

特に目を惹いたのは、階級に関係なく、男女共に入れていたというタトゥーだ。空想上の動物の図像が人気であったという。

画像は男性の左胸から背中にかけての実際のタトゥー。しましまの蛇のような生き物や、獣の爪のようなものが見えるだろう。


まだまだわかっていないことは多いそうだが、かなりユニークな文化が形成されていたことがこの展示からうかがえた。
かなり面白かったので、歴史や遺跡に興味がある人はぜひ足を運んでもらいたい。

大英博物館「Scythians: warriors of ancient Siberia

期間:2018年1月14日まで

チケット:16.5ポンド、16歳以下無料

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プロフィール

塚田沙羅

塚田沙羅

1988年生まれ、東京出身のフリーランスライター。

東京芸大で美術史を専攻。卒業後、美術系出版社で編集者として勤務。その後、フリーランスに。
2014年冬よりイギリス/ロンドン在住。2016年にドイツ人と国際結婚。

このブログはイギリス生活情報・美術・旅の三本柱で成り立っています。

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