大英博物館でロスチャイルド家の金銀財宝を堪能せよ(後編)

大英博物館
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ロスチャイルド家のコレクションを展示する大英博物館の2a室
あまりに豪華な品物ばかりなので、その中でも厳選して必見のアイテムを紹介していく。

この展示室とロスチャイルド家の関係についての簡単な説明は前編の記事をどうぞ。

ロスチャイルド家所有の超細密工芸品とジュエリーをロンドンで見る(前編)
大英博物館の第1室からつながっている2a室には、ロスチャイルド家のコレクション、文字通り「お宝」を展示する部屋がある。2015年にできたばかりの展示室だ。 これでもか! というほど宝石やら金細工だらけの、他の展示室とは雰囲気の...

超絶技巧の木細工とジュエリーを紹介した前編に続き、ここではカップやカトラリーなどの日用品、調度品を解説していくよ。

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室内調度品

ドアノッカー イタリア ヴェネチア 1550~1600年

ブロンズ製のドアノッカー。右は海の神ネプチューンと海馬のモチーフ、左はイルカに乗るサテュロスが2体彫られている(2つの顔は説明がなかったので不明)。サテュロスは豊穣と欲情のシンボルである。

この2つはセットではなく、それぞれ別の場所で使われていたもの。それでも海に関係あるモチーフがどちらも使われている。これ以外にも、このコレクションには海を想像させるモチーフが結構出てくるので、ロスチャイルドの好みもあったのかもしれない。

こんなのがドアにかかっていたら、どこに手をかければいいのか困惑しそうだ。

ブックカバー ドイツ 1506年

さすがロスチャイルド家というべきか、ブックカバーもこのありさまである。

宗教改革を生き残った貴重なもので、右は福音書のカバー、左は聖書の書簡本のカバーとして使われていた。
福音書カバーの方には4大天使と聖人が、書簡本カバーの方には聖母子と聖マルティヌス、トゥール司教と皇后ヘレナ(コンスタンティヌス一世の母)が表されている。

ハンティング・カレンダー ドイツ 1600~1620年

金地の板に狩猟に用いた犬、そして狩った動物の名前と姿が刻まれたカレンダー。

猪やウサギなど、獲物の絵が見える。毛先までかなり細かく表現されている。

カレンダーというだけあり、日付を表す目盛りのようなものはあるが、いつ何を狩ったかはよくわからない。

おそらく狩猟用のノートのような感じで使っていたのかもしれないが、こんなにキンキラキンだとものすごく尊い書類(?)に見えてくる。

ココナッツの実の水差し おそらくドイツのアウグスブルク 1575~1580年

東インド海でとれたココナッツの殻を使った水差し。もともとヨーロッパにはなかったココナッツは、ポルトガル人によって1550年代にもたらされた。当時は解毒剤として重宝されたらしい。

やはり「レア物」「珍しいもの」は、位の高い人がこぞってコレクションしたくなるのは古今東西変わらないようだ。

蓋部分のユピテルの像は、ロスチャイルドがコレクションに入れる前に付け加えさせた可能性がある。
キャプションを見る限り、ロスチャイルドはもともとの工芸品を自分の好みに「改善」してからコレクションに加えていることも多いようだ。

燭台 フランス 1560年頃

エナメル、いわゆる七宝焼きで装飾された燭台。「ヘラクレスの12の功業(ミュケーナイ王エウリュステウスからヘラクレスに命じられた仕事。獅子退治や雄牛を生け捕りにするなど)」のシーン、神々の姿、馬に乗る人物、音楽家などが描かれている。

Wenzel Jamnitzer ベル ドイツ 1560年頃

トカゲや虫、植物などがびっしりと彫られた、見る人によっては気持ち悪いと思うような装飾が施されているベル。ここにコレクターの「奇妙な物(ややグロテスクな物)への興味」も見て取れる。

もとはイタリアの彫刻家チェッリーニの作と信じられていたが、ロスチャイルドが本当の制作者を見つけ出した。彼は単なるコレクターではなく、研究者のような情熱をもって作品を収集していたのだろう。

カップ類

ダチョウの卵のカップ チェコ プラハ 1570~1580年

さてここからは、贅を尽くしたカップコレクション。実用性というよりは飾り物という感じだけれど、貴重な材料とともに、こんなにもさまざまなデザインがあることの驚かされる。

これはダチョウの卵で作ったカップ。アフリカから卵を輸入したのだろうか。

オウムガイのカップ 北ヨーロッパ 1550年

東インド海で捕れたオウムガイの殻を用いて作ったカップ。実はこれ、オウムガイの表面にも龍が彫ってあり、おそらく中国で製作されたものらしい。

この拡大写真でおわかりいただけるだろうか? 東洋風の龍が2頭いる。

それがヨーロッパにわたり、ヨーロッパの職人が残りの金属部分(海龍、人物像、脚)を付け加えたとされる。東西の龍のコラボレーションという面白い作品である。

オウムガイのカップ ドイツ 1741年

オウムガイは、当時の人々にとって「海で見つかる謎の宝物」であった。それを工芸品に取り入れるようになったのもその神秘性を考えればうなずける。

このカップは、ドラゴンが乗るレースのような模様を施したオウムガイを、海の神ネプチューンが支えている。ネプチューンが乗るのは亀である。

神話の世界をそのまま表出したようなモチーフは、見ていてわくわくする。ファンタジーだからか、こういう宝石だらけのファンタジーのような工芸品にも、合うような気がするのだ。

ネプチューン石英カップ ドイツ アーヘン 1866~1872年

こちらもネプチューン。おそらく、飲み物を入れる器だから海の神(水の神)のネプチューンが配されることが多いのだろう。
ちなみに、ネプチューンはローマ神話の名前で、それより古いギリシャ神話ではポセイドンと呼ばれていた。ローマ時代になるとローマ神話に取り込まれ、ネプチューンという名前で知られるようになったのだ。

やはり脚が亀になっている。脚を支えている小さなカタツムリが可愛い。
ネプチューンが乗っているのはおそらくイルカかクジラだろう。

石英(クォーツ)のゴツゴツした感触と、滑らかな彫刻部分の対比が際立っている。

鶏のカップ 1825~1898年

上の方に展示されていた、金の鶏のカップ。足の裏に何か書いてあるのだが、小さすぎて読めず。

羽の一枚一枚が彫りこまれた、写実的な作品。

カトラリー

スプーン 右 ベルギー(?)1850~1898年 左 マルメ(当時デンマーク・現スウェーデン)1625年

スプーン1つとってもすさまじい装飾性である。右のスプーンは柄の部分に聖ゲオルギウスがドラゴンと戦っている小さな像が彫られている。

左のスプーンには七宝焼きで、羊飼いの守護・芸術の神であるアポロ、リュートを弾くミューズが対で描かれている。

ミューズとはギリシャ語でムーサとも呼ばれ、文芸の女神の総称である。女神たちは3人、7人、9人でセットと諸説あるが、受け持つ役割がそれぞれ決まっており持っている物も異なる。
このリュートを持つミューズは、合唱・舞踊・または独唱を司る神であるようだ。

フォーク類 ドイツ、オランダなど 1600~1800年代

華美なカトラリーコレクション。実際に使用していたというより、飾りとして集めていた可能性の方が高そうだ。

右のセットは、ウエディングナイフ&フォークだそうだ。ヨーロッパで結婚式にケーキが登場するようになったのは18世紀からだそうで、その前はパイやパンを新郎新婦で分け合うという儀式があったらしい。このセットは1600年制作なので、パンを分けるのに使っていたのか、または何か別の用途があったのかもしれない。

左側のカトラリーを拡大してみる。さまざまな石や金属、宝石と、職人の技術が組み合わさった、なんとも贅沢な品物。

左側の二股のフォークは、ルビー、エメラルド、ターコイズの石が使われている。右側はオニキスに金とエナメルのメッキを施したもの。


今回紹介したのは、展示されている中の一部だが、他にも見ごたえのある作品が数多くあったので、ぜひ立ち寄ってみてほしい。

イギリスにあるロスチャイルド家の豪邸、「ワデスドン・マナー」のレポはこちら。

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