纏足、羊頭の煙草入れ、象牙の解剖模型…ウェルカム・コレクションの珍品常設展

2018年7月25日イギリスのアート情報, ウェルカム・コレクション, アート情報・展示レポ

ロンドンにある、科学や医療に特化した博物館、「ウェルカム・コレクション」の常設展「Medicine Man」の見どころと面白い展示品を紹介する記事の後編。

前編では、ウェルカム・コレクションの概要と、奇妙な仮面と変わった絵画のコレクションを紹介した。

この記事では、さらに奇怪な物ばかりを取りそろえたので、楽しんでいってもらいたい。

痛みを乗り越えて手に入れるもの

Nkisi像 1880~1920年 コンゴ

Nkisiとは、コンゴで信じられている、いわゆる精霊的な力の入れ物であるらしい。その力は守り、癒し、破壊の力を持つものだという。全身串刺しになっているのは、まじないの一環である。儀式を主導する人物が、お腹の空洞(四角い部分)に強力な薬を入れ、胴体に釘を刺す。釘は悪魔を滅ぼすのだという。

藁人形ではないけれど、人型のものに尖った物を刺す行為は、すごく魔術的に見える。

ファキルのサンダル 1871~1920年 インド

これまた棘だらけの靴である。ファキルと呼ばれるインドのヒンドゥー教苦行僧のサンダルで、裸足で履くもの。これをなんなく履けるようになるためには、数多くの修行と瞑想をこなさなければならないという。

纏足用の靴 1870~1910年 中国

足を小さくする(纏足)ために使われた靴。纏足は中国で10世紀に始まり、1000年ほど続いた女性の風習である。足が小さいほど女性的で美しく、セクシーで位が高いとみなされていた。子供の頃から纏足を始め、痛みと闘いながら大人になるまで続けるのだ。

1911年に、纏足は公的に禁止された。纏足用の靴を作る最後の工場は、1988年に閉鎖したという(そこまで残っているのが驚きだった。禁止令が出てからは鑑賞用の靴でも作っていたのだろうか?)。

ナイチンゲールの靴 1850~1856年 出自不明

これは痛みなど伴わない普通の靴だが、なんだかこれまでの痛そうな靴の後に見たらほっとしてしまった。

今の看護医療の基礎を築き、「白衣の天使」と呼ばれたイギリス人女性、ナイチンゲールが使用していた靴である。クリミア戦争時に、彼女がトルコのユスキュダルという地域で働いていた際履いていたと言われている。

マオリ族のタトゥー見本 1851年 ニュージーランド

ニュージーランドの先住民族、マオリ族が顔に施すタトゥーの見本。男女ともにタトゥーを入れるが、特に男性は皆こんな感じで、自分だけの模様を顔に彫っているそうだ。まずは炭で模様を描き、それからノミのような道具で彫っていくというが、聞いているだけでものすごい痛そうである。そもそもどうやって彫っているのか…。

完成まで数日、数週間かかることもあるそうだ。

解剖学を学ぶための人形模型

鍼灸模型17世紀 日本

呪いの人形みたいで怖すぎるのだが、針治療の針を刺す箇所を教えるために使われていた、張り子の人形だという。この全身に張り巡らさられた線は、経絡(けいらく)と呼ばれる、ツボのポイントである。元は道教の教えなども取り入れられて中国で発展した技術だという。中国でも同じような模型人形や、経絡図と呼ばれる絵は多く残っている。

顔が薄ら笑いを浮かべていて、また不気味なのである。

妊婦の解剖模型 17世紀 イタリア

象牙製の、妊娠した女体の解剖模型。左側が蓋を外して中を見られるようにした状態だ。かなり小さく、手のひらサイズである。
当時の解剖図などと照らし合わせると、この模型の細部は正確とは言えず、専門的な知識を教えるために使われていたものとは考えにくいという。産婆や産科医が、妊婦を安心させるために使っていたものである可能性がある。

女性の解剖模型 17世紀 ドイツ

こちらは妊娠中ではない女性の解剖模型である。17世紀には、男女どちらも解剖模型が多く生産されていた。上の象牙製の模型のような小さなものが普通だったそうだが、これはかなりの大きさだ。成人の等身大とまでは言わないが、子供くらいの大きさはあった。

こちらも、解剖学的には正確とは言えないため、用途が不明だそうである。

性行為や男根信仰を表した美術作品

性的な絵を隠すための静物画 イタリア 19世紀

これは面白いものだ。額の中にはもう1枚絵を入れられるようになっていて、表向きには果物や野菜が描かれている静物画を飾っておき、内側にはセクシャルな絵画を入れていた。

当時は今より性に対して世間の目が厳しかったため、そうした絵画を所有しているのも大変だったのだろう。

果物や野菜に入った性的な彫刻 中国

柔軟な発想である。果物や野菜を模したミニチュアな容器に、さらにミニチュアな彫刻が収まっている。セクシーな場面を表したものなので、開けるときに覗きをしている気持ちになってしまいそうだ。

男性器形のお守り 紀元前100~紀元400年

一周回ってシュールである。男性器に馬のような脚がついており、人を乗せて走っている。躍動感がすごい。豊穣と強さのお守りとして、古代ローマ時代に身に着けられていたものだという。このようなファリュス信仰と言われるものは、世界の色々な地域に見られる。

やはり古来から、性は人間の重要な関心ごとなのだ。

グロテスクさと美しさの共存

粉たばこ容器 1881~1882年 スコットランド

本物の羊の頭を使った煙草入れ。顎の下をよく見てもらうとわかるが、車輪のようなものがついている。このホイールがあるため、この煙草入れは平面を移動することができた。人がたくさん集まる社交的な夕食やセレモニーなどで、テーブルをこれがあちこち動き回っていたようだ。

頭をもぎとって煙草入れにするというのは、ちょっと奇抜な発想だけれど、この羊頭、かなり美しいものであった。ぐるりと巻いたゴツゴツの立派な角と、柔らかな毛皮の対比が印象的。

ヴァニタス 18世紀 ヨーロッパ

「ヴァニタス」とは、中世~近世にヨーロッパで流行した思想の一つで、「この世の快楽や栄光は儚く、死は必ずやってくる」というもの。盛者必衰にもちょっと通じる考え方のように思える。

右側は生きているときの姿で、右側は骨となり虫がたかる死後の姿である。

人間の顔 18世紀 イタリア

これは上の作品の隣にあった小さな絵。これも、左側は若く美しい女性の顔、右側はおどろおどろしい骸骨が表されている。この同時に生死を表す手法は18~19世紀のヨーロッパで流行したという。特に生きている人物像の方は、綺麗な服に身を包んだ健康な人間として、「死」との対比をあらわにするように描かれることが多かったという。

お守り的なシンボル

第一次世界大戦時の各国のお守り 

第一次世界大戦にイギリス軍、ロシア軍、日本軍の兵士たちが着けていたお守りだという。

下の聖人が描かれたペンダントがロシア、赤い服の兵士と黒猫がイギリス、貝殻のコンパスが日本。こんなに小さなものに希望が込められていたのを見ると、やるせなくなる。

黒猫は不幸の象徴として有名だが、イギリスでは幸運の証と捉える人もいる(なぜイギリスでだけそうなのかはよくわからない)。そのため、黒猫のお守りも使われていたのだろう。

これを着けていた兵士たちはどうなったのだろうか。

人間の歯でできた医者の看板 1800~1930年 中国

冷静に見ると気持ち悪いのだが(いや冷静に見なくてもか…)これが医者の看板として機能していたというのだから驚きである。確かに目を留めてしまうインパクトは十分だが…。上部に書かれている字は、解説によると「さまざまな病気を治療します」というような意味だそうだが、字が読めない患者にもこうした衝撃的なビジュアルで訴えかけていたのかもしれない。

歯をお守りとして持つ人もいるが、これだと何かのまじないに見える。

しかし、歯医者ではなく他の部位の医者なのだろうか。これで歯医者でなかったらそれも驚きである。

厨子 19世紀 日本

神道の神と仏教の仏計66体を一つ所に集めた厨子。仏壇のようなものなので、この前で商売の成功や健康のためのお祈りをしたりしたのだろう。1体1体はミニチュアだが、ここまで揃っていると壮観である。昔も、こういったものを収集するフィギュアコレクターみたいな人がいたかもしれない。

服や小物などかなり細かく装飾されているので、細部をじっくり見るのもまた面白い。


さて、これらを無料で楽しめる博物館であるウェルカム・コレクション、珍しいことに定期的に内容が変わる特別展も無料という素晴らしい博物館である。

ロンドンではぜひ訪ねてみてもらいたい。

その他、ウェルカム・コレクションの展示レポはこちらから。


ウェルカム・コレクション

住所:183 Euston Rd, Kings Cross, London NW1 2BE

入場無料