「フレイミング・ジューン」レイトンの豪華絢爛な屋敷がロンドンに隠れている

2018年5月23日

このオレンジ色の衣服をまとい眠る美女の絵は「フレイミング・ジューン」というタイトルの作品。プエルトリコの美術館にあるが、つい最近(2017年3月)までロンドンに来ていた。一時的に作者の家に戻ってきていたのだ。

イギリスの画家・彫刻家、フレデリック・レイトン( 1830~1896年)の代表作。他にも、彼は美しい女性が出てくる神話画の数々を残したことで有名だ。

ロンドンには彼の家があり、現在レイトン・ハウス・ミュージアムとして公に開かれている。先日訪れてみたら、その中があまりにも素敵だったので紹介したい。

フレデリック・レイトンの屋敷

Leighton House Museum
住所:12 Holland Park Road London W14 8LZ
入場料:大人12ポンド、シニア、子供、学生10ポンド、12歳以下無料


Front facade, Leighton House Museum © Will Pryce

大通りから横道に入った場所にひっそりとあるので、目立たない。隠れた穴場だ。写真撮影は禁止なので、公式にいただいたプレス画像から。

今回は企画展「FLAMING JUNE: THE MAKING OF AN ICON 」(~2017年4月2日まで)のレイトオープンに行ってきた。ワイン片手に室内を見て回れるので楽しかった。

普段は入場料がかかるが、私はイギリスの年間アートパスに入っているので、今回は無料だった。

中はまさに「貴族の屋敷」そのもの。面積はそこまで広くないけれど(一般人目線では十分広いけど)、インテリアがエキセントリックで感性に刺さる。

赤いテーブルクロスが映えるダイニング。お皿をまるで壁紙のように飾っているのは可愛い。

「アラブの間」は必見

The Arab Hall, Leighton House Museum © Will Pryce

この屋敷で一番の見どころである「アラブの間」。いきなり異空間に来た感じ。カラフルなアラブ風の文様で埋め尽くされている。

床の中央には小さく厳かな噴水がある。イスラム教圏では、水が少ないので歴史的に水が大変重要な価値を持ち、パテイオ(庭園)も水が主役になったと聞いたことがある。

イスラム文化が融合したスペインのグラナダにある、アルハンブラ宮殿のパティオでも獅子の噴水が有名だし、その地域のローカルの家も中庭に噴水を持っているという。噴水はアラブ文化・イスラム文化である種のアイコンになっていたんだろう。

 ©RBKC Museums Service

天井も幾何学的なデザイン。

このステンドグラスも、西洋の教会のものとは一味違う。モダンだけどエキゾチックだ。

逆(アラブの間側)から見た室内はこんな感じ。奥に2階へ続く階段がある。

孔雀が階段に

2階へ続く階段には、孔雀の剥製が乗っている。なかなかに貴族趣味。でも嫌味な感じではないので、こういうちょっとしたアイデアを見て回るのが面白い。

音楽ライブイベントも楽しめる

2階の1室には、グランドピアノが設置されているこじんまりとしたライブホールがある。

今回訪れたときには、ジャズライブが行われていた。

レイトンの作品展示(時期により内容に変更有)

2階の作品展示室で、企画展を開催していた。展示は期間限定で、その都度作品も変わる。基本レイトンの作品と、レイトン周辺のかかわりがあった人の作品を展示している。

レイトンの作品のキーワードは「美女+神話」

レイトンは彫刻も制作していたが、絵画作品の方が有名だ。
レイトンの絵画作品を一言で現すなら、「美女+神話」のコラボレーションだ。妖しく美しい幻想画の雰囲気もある。

当時(ヴィクトリアン時代)のイギリス美術界では、古代ギリシャなどの神話に出てくる世界がテーマとして人気だった。

私の大好きな耽美系のにおいもぷんぷんなので、(私基準で)「とってもイギリス的」な画家だ。

自画像がすでに神話の登場人物っぽい。さすがである。

「漁夫とセイレーン」1856~1858年

「フレイミング・ジューン」と並んで有名な代表作。セイレーンが漁師を海に引きずり込むシーン。

セイレーンとは古代から伝わる半人半鳥の怪物なのだが、バージョンがいくつかあるようで、これは半分魚。いわゆる人魚。美しい歌声で漁師を惑わすという。

体のラインがエロティック。セイレーンの顔がはっきり見えないあたりも妖しくてよろしい。尾がすでに男性の脚に絡みついているあたりが、引きずり込む気まんまん。

男性は恍惚としているような、眠っているような、心ここにあらずの顔をしている。

「Twixt Hope and Fear」1895年

 これはレイトン晩年の作品。この女性のモデルは定かではないが、この作品は神話というより肖像画のような雰囲気が漂っている。特定のモデルはおらず、画家にとっての「絵の女神」ではないかと推測されている。

女性の存在感と、触りたくなってしまうほどの肌の質感表現に目が吸い寄せられる。こんなに力がある人物画を久々に見た。

堂々たる風格の女性だが、顔は何かにおびえているように険しい。タイトルにもあるように、成功への希望と、失敗への恐怖が入り混じった作品だという。

「Lachrymae」1894~95年

「Lachrymae」とはラテン語で「涙」。悲しみに暮れる女性を描いた作品である。この時のレイトンは心臓病を患っており、自身の命が長くないことを知っていた。この絵を描き上げた翌年、1896年に亡くなっている。

この作品は何か神話の一シーンではないが、古代ギリシャの壺が描かれており、女性の服も空間も古代ギリシャの神話風だ。女性の後ろには、「死の象徴」であるイトスギ( cypress trees)の木、「不死の象徴」である月桂樹(laurel bushes)の茂みが描かれている、なんとも意味深な絵である。

「Twixt Hope and Fear」の「希望と恐怖」だったり、この作品の「死と不死」だったり、レイトンは対の要素を入れるのが好きだったのだろうか。


今回の展示では、冒頭で紹介した「フレイミング・ジューン」と最後2つの作品、その他いくつかの作品を見ることができた。定期的に企画展を開催していて、その都度見られる作品は違うが、作品だけでなくこの屋敷を見に行くだけでも十分に価値があると言える。

すぐ近くに、野生の孔雀が歩き回っている公園もあるのでこのあたりのエリアは散策におすすめだ。