V&A美術館の日本コーナーは「さりげなく面白いもの」が多い

2017年8月25日V&A美術館, アート解説・展示レポ, 東洋美術

以前、大英博物館の日本文化展示コーナーについて、3本の記事にわたってレポートをお届けした。

今回は、それよりさらに知られていない(?)V&A美術館の日本展示室について紹介したい。大英博物館と比べるとこまごまとした品物が多い印象だったが、ここには「よく見ると面白い掘り出し物」が多かった。

画像はすべてhttp://collections.vam.ac.uk/より。著作権の関係上画像が載せられないものもあるので、見る価値のあるものはここで紹介するよりずっと多い。

日本文化コーナーは45室、仏教コーナーや中国、韓国文化などと隣り合わせになっている。

絶対見るべき!孔雀のカップル

鈴木長吉 孔雀大香炉 1877~78年 

入口にあるこの大きな彫像は、雄と雌の孔雀が見つめあうモチーフの香炉である。

1878年のパリ万国博覧会に出品され、「アール・ヌーヴォー」という言葉を作った人物でもある、フランスの大美術商サミュエル・ビングが大金を投じて購入した。

羽毛の表現、眼球、孔雀の表情、ゴツゴツとした脚の質感、どこをとっても隙がない。
この首のラインまでも美しい。

どの角度から見ても飽きさせない技量だが、やはり一番目を惹くのはこの雄の尾羽だろう。

「本当に一枚一枚薄い羽が折り重なっているのでは」と思うほど細部まで彫り出されている。

作者の鈴木長吉の作品の中でも突出した作品として評価が高く、彼が帝室技芸員に選ばれる(=皇室からの栄誉を賜る)時もこの作品が「最も傑作」と評された。

「サムライ」コーナーの充実ぶりがすごい

ここでも大人気「サムライ」コーナーは、大英博物館より見ごたえがある展示を作っている。

甲冑 19世紀半ば 

松前藩の紋がついている甲冑。着ている人形はこれも19世紀に作られた「生き人形」だという。

この展示では、甲冑や刀剣はもちろんのこと、剣の部位紹介まできちんとしていて、日本人にも勉強になる内容だった。

刀と脇差し

つば 1820~50年

様々なデザインのつばを並べた「つばコレクション」があり、これが多数集まるとなかなか壮観なのだ。

掛け軸 1750年頃

鎧の後ろにこの掛け軸がかけられていたのだが、これがこのコーナーで見つけた「掘り出し物」だ。

これはいわゆる「鎧の着方 指南掛け軸」なのだ。複数のタイプの鎧を下着から着ているところを段階ごとにわけて描いてある。

実用的だったかはともかく、これを掛け軸にするという発想がたまらない。遊び心のあるしゃれた掛け軸である。

もともとこれは横向きに見ていく絵巻で、それを組み合わせて掛け軸にしたのだろうと見られている。

ただ圧倒される技術

舞楽面(龍王) 1450~1550年 

舞楽に使われた龍の面。頭にも小さな竜がくっついている。龍は水神だと信じられており、これは乾期に雨乞いの舞を踊るときにつけられていた面だという。

500年以上前のお面だと思えないくらいよい状態で残っている。まるで昨日作りました、と言っても信じられるくらいに。衣装と合わせて舞を見てみたい。

宮川香山 高浮彫花瓶(鷹と熊)1875~80年

左上に鷹、右下に熊を配した花瓶。熊はちょっとわかりにくいけど、親熊が上を向いて、その下に子熊がひっくり返ってじゃれている。

ごつごつとした岩の質感と、鷹の柔らかな羽根の表現の対比が見事。「自然」を日用品に融合するのは、日本人お得意の技。

この花瓶に飾る花によって、たった一輪でも全体の印象が大きく変わるだろう。個人的には牡丹の花を挿してみたい。

安藤七宝店 花瓶 1910年頃 

1880年から続く老舗の七宝焼き店制作の花瓶。美しい2匹の鯉と、浅く彫った水の表現が優雅に調和した作品。

こんなにすっと引いた(ように見える)線数本で「水」を表してしまうところに、この職人の感性と卓越した技術を見る。またこの淡い水色が、これ以上薄くても濃くてもいけない、ぴったりの色合いだと思う。

野々村 仁清 香炉(法螺貝) 1660~80年

山伏が吹くほら貝を模した珍しいデザインの香炉。香炉とは要はアロマホルダーである。

陶器なので材料は土だ。土から貝を生み出すなんて、なかなか粋なことをする。質感は本物の貝にしか見えない。

このほら貝型の香炉は、日本では静嘉堂文庫美術館でも見られるらしい。

不思議な生き物の根付と印籠コレクション

このコーナーにも日本の根付コレクションがたくさん展示されていた。

松田亮長 あくびをする達磨 1825~75年

見た瞬間「ええ…」となった変な作品。達磨とは菩提達磨、達磨大師とも呼ばれる、禅の創始者であるインド人仏教僧のこと。

頭まで着物で覆った姿で仙人のように描かれることが多いが、これは何というか…ヒョウタンとかに詰まっちゃったように見える。シュールすぎる根付であった。

田中岷江 猿を攻撃するタコ 19世紀

猿を襲う巨大タコに、口を開けて応戦する猿。昔話の一コマのように見える。

…と思って調べたら、実際「猿の恩返し」という話があるそうだ。

昔、九州のお大名の家来で、勘助という飛脚がいました。(…)薩堆峠(サッタ峠)へ向かう途中、一匹の猿が化け物のような大ダコにさらわれようとしていました。勘助は脇差(小刀)を取り出して、波打ち際にいる大ダコめがけて切りつけましたが、全く刃が立ちません。そこで大名から預かった刀を取り出し、すでに海の中へ潜っていた大ダコめがけて飛びかかりました。

海の中に入った勘助はタコの足に噛みつき猿を救出し、持っていた大名の刀で切りかかりましたが、ポキンと折れてしまいました。猿を助けたものの、大切な刀が折れてしまって落胆している勘助に、仲間の猿たちが一本の刀を持ってきました。(…)

まんが昔話 「猿の恩返し」より

この後、飛脚は無事にタコを退治するようだ。このタコはよく見ると服を着ているのがお茶目。作った人の遊び心が見える。

豊容 天狗の孵化 19世紀

カラス天狗が孵化する場面。「架空の生き物の詳細な生態」を見るのが好きな私にとっては、これも興味深い。

天狗はすでに生まれた時から頭髪がある…?そして卵生だと思われていたのね。

印籠(蝉)

本物と見間違えるほどよくできたセミ型の印籠。ぱっと見では印籠だとわからない。
羽根のパターンなどよく彫りこんであって、何らかの執念すら感じる。職人の執念というべきか。

印籠とは携帯用小物入れで、薬や印鑑などを入れて運んだ。印籠の先には根付をつけて使う。根付と印籠のデザイン性を競うように、様々な形のものが生み出された。


橘玉山(大村玉山) 印籠(伊勢海老) 1800~75年 

伊勢海老が浮き彫りになった印籠。下地の金に海老の赤色がよく映え、なんともおめでたい雰囲気だ。

このように装飾性が増した印籠や根付は、もはや実用性よりもファッション性を重視して作られたものだ。

「実用的なものが流行するとその中から芸術が生まれる」のは、どの時代も同じなんだろう。

美しすぎる着物

打掛 1870~90年 作者不明

もともと、どんなにすごいデザインでも、服なら着てなんぼだろう、人が身に着けてこそより美しく見えるのが服だろう、と思っていた。

そんな概念が初めてこの着物で覆された。これはただ、そこにあるだけで美しいのだ。

ここには2つの歌舞伎で人気だった演目がミックスした図柄が表されている。
橋を渡る男性と獅子は元は能作品だった一つ、「石橋(しゃっきょう)」、下の男性は、もとは近松門左衛門作の人形浄瑠璃「国性爺合戦(こくせんやかっせん)」から。

獅子のヒゲまで細い紐?糸?で表されているのに感動。思わず触りたくなってしまう。

両面使いになっていて、裏はまた全く違う着物のよう。

さりげなく面白かったもの

有田焼 1660~90年 

日本が西洋に輸出していた有田焼の一つ。中国様式に見えるが、実は日本産。

この象の仲間みたいなものが、大英博物館日本コーナーにいる。

参考↓

Hoshinsai 羅漢群像 1890~1910年

作者は「ほうしんさい うえむら まつのぶ」というらしいのだが、調べても出てこなかった。象牙製の置物で、4人の羅漢と竜、象が一緒に彫られている。そして獅子が台座にされているのがちょっとかわいそう。

象の右側にいる羅漢が、なんだか掃除用具のコロコロを象の頭にあてているように見える(絶対違う)んだけど、これが何かわからない…。

置物 1890~1910年

一本の象牙から掘り出された龍。目の部分は黒檀と真珠貝(真珠ではなくて真珠を生み出す貝殻の方)が使われている。水晶はおそらく龍がもっているとされる宝珠かな?

ウロコや体のくねり具合がリアルすぎて、まるで本物のアルビノの龍を見ている気になった。ちょっと気味が悪いほど、精巧に作られている。

結構小さいサイズなので、私は「こんな龍が飼えたら可愛いだろうなあ」なんて妄想した。

収納箱 1885~1900年

芝山仙蔵という人物が始めた、柴山細工という貝、牙角、陶磁、べっこうなどを象牙や紫檀の素地にはめ込む技法で作られた箱。この技法はヨーロッパで大変人気が出たという。

全ての面に鶏が描かれ、その華やかさは一際目を惹く。鶏ってこんなにカラフルだったっけ、と思うほど色彩豊かだ。

駒井音次郎 達磨の皿 1875~80年

よくよく中央を見ると、なんか「ぷくーっ」てした達磨大師がいて笑った。
この頬に手を当てるポーズは意味があるのだろうか…。怒っているようにも見えるけどなんか可愛い。マンガのようだ。

銀細工が大変美しい作品なのだが、それよりもこの達磨に気をとられてしまう。

三好かがり Le Soir 1994年

三好かがりさんという漆芸家の作品。これは素晴らしかった。

ムラ一つなく黒光りする漆に浮かぶ、螺鈿で作られた都会の灯り。静かにまばゆく、ただそこにある。東京の夜景を思い出した。

伝統工芸を現代に持ってくるとこうなるのか、と新鮮な驚きとともに、そんなアーティストがこの時代にいることがとても嬉しかった。
写真では伝えきれないけれど、見たらハッとする作品だ。

V&Aには、イケメン仏像が並ぶ仏教コーナーもある。

大英博物館の日本展示室はこちら。