日本は「人件費の重要性」を一刻も早く認識すべき―スマイル0円の呪い

イギリスに住んで3年が過ぎた。

その間、日本へ帰ったのは2回。2回目はつい先日の2017年12月。3週間くらい帰省して、実家に泊まり、友達と会ったり国内旅行をしたり日本食を堪能しまくってきた。

「外国に出ると日本を外から見られる」というのはよく聞くが、これは確かに一理ある。

イギリスに来る前と来た後では、日本社会に対する自分の視点がだいぶ異なっていることに気づいた。

まず、私が直近の帰省で感じたことを書いていく。これはメリットとデメリットと表裏一体なのだ。

日本に帰国したとき気づいたこと

無料のトイレがどこにでもある

これは日本人にとってはかなり大きいイギリスー日本間の差だ。

無料で清潔な(都心はそうじゃないところもあるけど、まあ人がいすぎるししょうがない)トイレがどこの駅にも設置してあって、コンビニなどでも借りられる。日本では水分補給に気を使わなくていい!

きちんと管理の行き届いたトイレがどこにでもある、って本当にすごいことだ。

食事が安くて美味しい

私は日本食がないと生きていけない人間なので、イギリスでもほぼ毎日自炊して日本食を食べているが、帰省した時には日本のスーパーの食材の安さ、飲食店の安さにいつも驚く。以前は当たり前に思っていたはずなのに。

もちろん、日本食材はイギリスでは輸入ものだから高い、というのもあるけれど、それを抜きにしても日本は食べ物が安い。ちなみに、イギリスでは基本の食材に消費税はかからないので、税金なら日本の方がかかっている。

カフェも居酒屋もレストランも、「これでこんな(良い)クオリティのものが出るの?」と思う。外食の価格は体感としてイギリスの半分くらい。サービスも手厚いしね。

というか全部安い

まあ端的に言うとこれ。

交通機関も、日用品も、サービスも。基本どれも安いと思う。

日本に帰ったら必ず美容院に行くのだが、「カットとヘッドスパとトリートメントがついてこれで1万円以下(実際かなり下)なんですか?すごい!しかも仕上がりパーフェクト!」と驚くことも毎回。

人件費安すぎないか

上記を享受して思ったのは、「え…これ、働いている人、お金ちゃんともらえてる?」ということ。

食材の生産者はちゃんと儲けが出てるのかな。

売っている人、飲食店でサービスしている人、サービス業の人はあの心遣いとサービスに対してきちんとお給料をもらえてるんだろうか。

トイレが無料で使えるってことは、掃除や管理をしてくれる人はちゃんと見合った対価をもらっているのだろうか…。

給料に見合わない長時間労働、サービス残業はさせられていないのだろうか。

だが私は知ってもいる。「上記以外の職業も含めて、自分の働きに見合った収入を得られていない人はたくさんいる」と。日本で会社勤めをしていたころは、私も使いつぶされた一人だったからだ。長時間労働、サービス残業、パワハラの嵐で精神を病んだ。

便利さは、多くの人の長時間労働やサービス残業や低賃金労働で成り立っている。

イギリスは収入格差がかなりある。それでも、日本よりは人が使い潰されてないと思う。過度な長時間労働や、残業代未払いも日本よりは少ない(もちろんそういう企業もないではないが)。過労死のニュースも見たことはない。

そして、安ければサービスの質は劣って当たり前だ。安いものも高いものも、すべて均質なサービスはありえない。対価分しか働かないのは当然のことだ、という認識がある。

日本はそのへんが異常に見える。どんな安いものにも、過剰な丁寧さや変な物差しの礼儀を一律に要求する。最近話題になった、スーパーの店員がマスクをしているとクレームが入るなんてその最たる例だと思う。

スマイル0円という呪い

ここには、マクドナルドのキャッチフレーズで浸透した「スマイル0円」への信仰がある。今や国全体で「スマイル(サービス)が0円で当たり前」だと思いこんでいるのだ。

サービス残業という言葉がその最たる例だ。ここでは「サービス=無料」という図式ができている。

だが本来、サービスは無料ではない。まずその前提がおかしい。

ちなみにスマイル0円というコピーを掲げた日本マクドナルドは最近、社長が「マクドナルドのサービスは人によって支えられている」として、赤字ながら従業員の給料をあげたことで話題となった。

そもそも日本でここまでサービスやおもてなしが発達したのはなぜか。愛想やサービスをよくすることで、いい評判を広めて顧客やリピーターを増やし、もっとお金を得たかったからだ。

だが、現在は皆が皆、いいサービスが当たり前になりすぎて、どんなに愛想が良くても、親切なサービスを提供しても、人々は慣れてお金を落とさなくなってしまった。それどころか、少しでもサービスが落ちる店を糾弾するようになってしまった。

それに加えて、どの業界でも盛んになった低価格競争。このしわ寄せをくらうのは、軽視されている人件費だ。

本来お金をもっと得るためのサービスだったのに、「サービスはタダ」と人々に勘違いさせてしまう事態となってしまった。これが日本全体にかかっている呪いだと思う。

そしてもっとも困ったことは、経営者までもがその呪いにかかっているということだ。たとえお金が落ちてきたとしても、目に見えないスキルやサービスには対価を払わない。技術があがって以前と同じ時間で倍の仕事をこなしても、心をこめたサービスをしても、それは「当然0円」なのだ。

破綻を防ぐために人件費を重視するべき

人はロボットではない。感情もあるし、働けば疲れるし、食べないと生きていけない。今の社会では、食べるためにはお金が必要だ。だから、働きに見合う対価がなければいつかは破綻する。

サービス残業や低賃金の長時間労働などは、その破綻を促進する。

ここ10年くらいで、じわじわと明るみにでることが多くなった、過労死や賃金未払い、無理なノルマ、パワハラ、異常な労働環境。こうしたニュースを見ていると、これまで人件費を無視したツケが来て、日本が破綻していく音が聞こえるように感じられる。

働き方改革など、国をあげてやっと動きが出てきたりもしているが、一般の認識が是正されるのにはまだ時間がかかるだろうと思う。一刻でも早く、人件費の重要性が浸透することを願っている。