V&A美術館:中国文化が生んだ素晴らしい芸術品はここで見る!

2017年9月5日イギリスのアート情報, V&A美術館, アート情報・展示レポ

V&A美術館の仏教コーナー日本文化コーナーの紹介に続いて、中国文化のコーナーを紹介していくよ。

部屋はその2つと隣り合わせの44室。

日本文化コーナーと違うのは、中国は長い歴史を持っているだけあって、とんでもなく古いものも結構見られること。しかもそんなとんでもなく古い時代に、目を見張るような素晴らしい品物がすでにたくさん生まれていることに驚く。「中国文明」と言われるだけある。

画像はすべてhttp://collections.vam.ac.uk/より。

絵画のような刺繍

花鳥刺繍掛軸 清晩期(1860~80年)

これ、絵かと思いきや刺繍だったという驚き。刺繍があまりに細かすぎて、目の前まで近づいてもよく見ないと糸が見えない。

細い葉の一筋一筋も、全部糸で縫い付けられている。「匠」というほかない職人技だ。

文化を伝える彫刻群

陶供卓連食品八碟 明晩期(1550~1650年)

葬式の際のお供え物を表した小さな彫刻。埋葬される人のステータスによって、葬式の豪華さも変わる。

当時の中国の葬式の様子を具体的に伝える貴重な資料でもある。豚の頭みたいなものまで見えるが、メジャーだったのだろうか…。

越窯青瓷蓮瓣紋蓋罐 北宋(960~1127年)

天辺に蓮の花を乗せた、葬式用の壺。死者を弔うお米を入れるものとして使われた。
もう一つの米壺とペアで一緒に墓に埋められるが、こうしたものが用意されたのは特に裕福な人の葬式だったと見られている。

この壺の大きさは片手でつかめるくらいのごく小さなものだった。当時の中国、特に南部ではよく見られる風習だったという。

三彩陶天王俑 唐中期(700~750年)

墓に入り込もうとする悪霊を追い払う、墓の守り人を表した彫刻。もともとは2体1対であったうちの1体。

モチーフは当時の皇帝だったと言われる。

さりげなく牛を踏み台にしているのと、冠だと思っていたのが、羽を広げた大鳥だったのにしばらくしてから気が付いた。この鳥は鳳凰化もしれない。

三彩陶駱駝商人俑 唐中期(700~750年)

ラクダ型の土器。中央アジアのソグディアナという地域の商人が上に乗っている。シルクロードの長い道のりを渡るのに、当時ラクダが使われていた。中国人も利用していたようだ。

ラクダの毛並み、小さな歯や舌まで写実的に表現されている。鉛釉薬でてらてらとした質感を出した彩色が美しい。特にカラフルな鞍の釉薬を垂らしたデザインは芸術的だ。

褐釉陶異族使者俑 隋(581~618年)

(中国にとっての)外国の高官を彫ったもの。手入れされた長いひげと、この衣装と帽子は異国のものである。

だが民族を特定するのは簡単ではない。当時、シルクロードを通じて中国には様々な国から人が行き来し、多様な民族が混ざり合っていたからだ。おそらくこれは当時の政府のゲストとして中国に来た位の高い人物だろうとされている。

大きな鼻に大きな目、太い眉などから、東アジア人ではなく、中東の国の出身かもしれない。

三彩陶馬 唐中期(700~750年)

陶工職人の技が光る作品。西方からきた赤毛の美しい馬は、当時の中国人たちにもてはやされた。

初めて西方から強く頑丈な馬を連れてきたのは、前漢の武帝(BC141~BC87年)だった。当時漢民族の使う馬は小さくて貧弱なものが多く、武帝は西の大宛(フェルガナ)に強い馬がいることを知り、2度遠征して、多数の馬を手に入れた。

これらの馬は、「血のような汗を流して走る馬」という意味で「汗血馬」と呼ばれた。現代にいる馬でアカール・テケ(アハルテケとも)という品種が、汗血馬の子孫ではないかとも言われている。

皇帝は、この馬が安全に天国に送り届けてくれると信じていた。この作品が作られた唐の時代にも、要人の墓にはこうした馬の彫像が一緒に入れられるのが習わしであった。

ユーモラスなものたち

老子騎牛銅像 清中期(1700~1800年)

道教の始祖とされる老子が牛に乗っている像。ちなみに老子は英語で「Laozi」という。

老子は周(BC1046年頃~BC256年)時代の人物で、今に伝わる書物「老子」を書き終えた後、周を出てどこかに去ってしまったとされる。周を出るときに水牛に乗っていたという言い伝えから、牛に乗る老子の姿は美術作品でよく用いられるモチーフとなった。

雄々しい牛と裏腹に、老子の風貌は癒し系の大黒様というか、典型的な仙人のような感じ。年代も紀元前の話だし、伝説では老子は何百歳も生きたとも言われているから、もはやキリストとかブッダとかに近い「実在していたかよくわからない人」ポジションである。

それでもこれだけ根強く伝説や書物が残っているということは、何千年もの間、その教えは深く人々の心に残り続けたということだろう。時を超越して続いた教えそのものを具現化したのが、この仙人の姿なのかもしれない。

彩陶鎮墓獣 北朝(450~520年)

架空の動物である霊獣は、当時お墓に一緒に埋められる彫刻のモチーフによく使われていた。悪魔を追い払う守り神の役目を果たすと考えられていたからだ。

このお腹をえぐられたような形と、顔は怖いのに四肢は貧弱で結構めちゃくちゃな像である。尻尾も小さく丸まっていてなんだか怖がった時の犬のようだ。

書いていて気付いたが、この展示室で見た中国の彫刻はお墓に埋められるものの割合が多かった。単に埋められたものはよい状態で残りやすいからだろうか。

綠釉陶羊園 東漢(25~220年)

手のひらサイズの羊の放牧場。これもお墓に埋められるグッズの一つだったらしい。

こういう現世的なモチーフを埋めるのは、死者が死後の世界でこの世と同じような生活を送っていると考えられていたからだという。

つるりとしているように見えるが、よく見ると一頭一頭の角なんか実によく彫られている。最初は羊をお風呂にでも入れているのかと思ったが(私の想像力のなさよ)、これは柵だったのか…。

この部屋で一番かっこいい彫刻

彩繪雕観音像 金朝(1200年頃)

この展示室で、全体像がかっこいい仏像に出会ってしまった。顔がイケメンな仏像は仏教コーナーにいるとお伝えしたが、姿勢も含めてこんなに男前な観音像はここ以外にいないのではないか。

これは写真だとどうしてもスケールが縮こまってしまって難しい。実際に見たほうがはるかに格好いい。

流れるような衣紋の優美さと、シルエットを大きく見せるようなポーズが、どっしりと構えたリラックスした雰囲気を作り出す。

カラフルな像ではないが、頭の冠や胸元など、ところどころに飾りが施されているのもスタイリッシュである。

というか、どうやら私はこの片膝を立てて腕を休ませるポーズが好きらしい。これは「輪王座」という仏のポーズだ。

仏像の姿勢には立像、坐像(座っているもの)、臥像(横になっているもの)の3種類があり、坐像の中にはさらに色々な種類がある。その中の「輪王座」は右足を立てて座るポーズのこと。手を立てた膝の上に置くことも多いらしい。

この作品を見て「キュン」と来た人は、「輪王座」で画像検索すると幸せになれるかも。

繊細な細工が施された日用品

竹木胎描金漆套盤 清中期(1700~1740年)

9つの器が一つの箱におさまる、重箱のような、お弁当箱のような器。庭での食事やピクニックに使われたという。

冷たい前菜、またはコース料理の合間のスナックを入れていたという。日本人にとっては身近だけれど、300年も前からあったとは。実はもっと前からあるのかな。

木座石板《東海仙界圖》挿屏 清晩期(1850年頃)

いくつもの層になっている浮彫彫刻が施された石板。このシーンは東の海にあると言われる蓬莱を表したもの。

蓬莱とは、仙人が住むといわれていた島で、死がない楽園のこと。蓬莱には長寿を願うという意味がある松の木が生えている。長寿のシンボルである鶴も二羽、上空に飛んでいる。

まるでミニチュアのパノラマのような感じで、触ってみたくなる。崖の部分は切り立った岩肌のごつごつとした表現が実にリアルでよくできているが、家屋の部分は浮き出ているけれどどこか平面的で、2Dのよう。どちらも3Dなのだが、錯覚的である。

これは挿屏と呼ばれる一種の屏風で、大きいものは部屋の入口に置かれて実際に仕切り的な役割を果たし、小さいものは机の上に置いて装飾品として楽しんだという。これは小さいものだったので、純粋に見て楽しむ置物だったのだろう。

象牙雕十八羅漢臀擱 清中期(1750~1800年)

象牙でできたひじ掛け。18人の仏僧が海を渡るという故事に基づいたものらしいが、調べてもあまり詳細はわからなかった。よく知られているものとして、「八仙渡海」という8人の仙人が海を渡る冒険譚があるが、それとはまた違うらしい。

竹を縦に割ったような形になっているこのひじ掛けの裏側には、小川と鳥の群れが彫られているが、どっちに肘を乗せるのだろうか。

形状的にはくぼんでいるほうに乗せたほうがおさまりがよさそうだが、浮彫がちくちくするのでは、浮彫も引っかかったりしてダメージを受けるのでは、と考えてしまうが、裏面にも浮彫はあるし、何よりひじ掛けとしては使えなさそうな形だ。謎だ。

…と思っていたら、解説によれば、「これは装飾として飾られるもので、誕生日の贈り物だったと見られている」らしい。なんだ。実用的なものではないのか。

わざわざひじ掛けの形に彫ることはないんじゃないか、と思うが、日用品に労力と技術を注ぎ込んで美術品にすることに価値があるのだろう。日ごろ使っているものに美を宿すという喜びや驚きが大切なのだ。

ここに載せられなかったもので、思わず頬がほころんでしまうほどかわいいものや、美しいものもたくさんあったので、V&A美術館に行く際はぜひこの中国コーナーものぞいてみてほしい。