「耽美」とイギリスの強烈な関係

2018年3月4日

「耽美の道はイギリスに通ず」とはよく言ったものだが(言われてない)、耽美を極めるならイギリスに来なくては話が始まらない、と思う。

私自身、「なぜイギリスに来たの?」と問われたら、「私の好きな耽美のルーツがあるから」が答えだ。

耽美とは何か

「耽美主義」…美のみに最高の価値を置く思想。19世紀後半にイギリス・フランスを中心に起こり、芸術・文学・映画の一流派として多くのアーティストに影響を与えた。唯美主義ともいう。

日本での耽美主義は、小説家が特に有名で、谷崎潤一郎、澁澤龍彦、夢野久作、三島由紀夫などが代表かな。

今は、耽美というと少し毒気を含んだ美というものを差す気がする。ただ美しいだけではなくて、陰のあるもの。病弱、破滅、官能、死、影、悪、闇、悲哀、倒錯、耽溺、狂気などなど。

私は本来の意味の耽美主義(=美が最高の価値)でもあるけれど、後者の方も大好き。まあそもそも、美のみに真の価値を置く、っていう時点ですでに倒錯的。美だけを追い求めて生きて、それ以外は全部いらない、って捨てられたらどんなに素敵か。でも実際、そんな生き方はなかなか難しいからこそ憧れるのだけど。

オーブリー・ビアズリー

19世紀末のイギリス美術を語るうえで絶対外せないのが耽美主義。その中でも、この人なくしてはイギリスの耽美は語れない、と断言できる。

耽美主義の作家、オスカー・ワイルドの作品の挿絵画家として名声を得たビアズリー。

オスカー・ワイルドが古代の伝説をもとに書いた「サロメ」という戯曲がある。
これはワイルドの完全オリジナルではない。サロメの伝説は古代から伝わっていて、ヨーロッパの多くの画家が題材にしてきた。

あらすじはこうだ。

古代バビロンに預言者ヨカナーン(ヨハネ)がやってくる。王からの忌まわしい視線に耐える、妃の娘サロメは、ヨカナーンに惹かれる。ヨカナーンにいくら近づこうとしても、ヨカナーンはサロメを忌まわしい出自だと言って遠ざける。不吉な予言ばかり唱えるヨカナーンを、王と王妃は牢屋へ閉じ込める。
場面が変わり、王はサロメに舞を要求する。
「お前がもし踊ったら、なんでも好きなものを褒美にやろう」
「嫌ですわ、王様」
「頼むから踊っておくれ、なんでもやるぞ」
「では私はヨカナーンの首が欲しいのです」
サロメ、舞を踊る。兵士の一人がヨカナーンの首を切る。
サロメはヨカナーンの頭を持ち上げ、口づけをする。

ワイルドはそれに最後の「キスシーン」をつけ加えて究極の作品にしてしまった。
そこにビアズリーの挿絵が加わる。

「お前の唇に口づけするよ、

ヨカナーン。」

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このワイルドの創作とビアズリーの挿絵のコンビは大変な人気を得て、「サロメの物語」は最後のキスシーンありの狂気をはらんだ話として広まった。

血まみれのヨカナーンの首を抱え上げて、待ち望んだキスをする美女の光景は、おぞましさと美が混在している。
古代からの「ファム・ファタール」であるサロメを、ここまで怪しく美しく仕上げたのはビアズリーだ。

ファム・ファタールとは、その美しさで男を破滅に陥れる女性のこと。美女スパイ「マタ・ハリ」のような。

サロメは王ヘロデをその美で惑わせ、結果、ヨカナーンを手に入れるために殺させてしまった。

サロメの日本語訳版は、ビアズリーの挿絵も収録されている岩波文庫の「サロメ」がおすすめ。
古いバージョンなので、和訳の言葉選びは古めかしいけど、表現が素晴らしい。

この作品もサロメの一シーン。孔雀柄のドレスを着ているのがサロメ。この孔雀柄は当時のジャポニズム(=西洋の日本文化への傾倒)の影響とされている。

サロメは男性的に、ヨカナーンは女性的に描かれている。ドレスの孔雀の尾は、孔雀のオスが求愛をするように広がり、サロメのヨカナーンに対する欲望を表している。

ビアズリー自身は、もともと病弱な体で生まれ、25歳の若さでこの世を去っている。美にまみれ、生き急いで死んでしまった。

イギリスの耽美主義美術

ビアズリーだけではなく、この時代には、イギリスで耽美主義芸術が花開いた。
ラファエル前派の画家、ミレイやロセッティ、バーン・ジョーンズ、デザイナーのウィリアム・モリスなどが代表的。
装飾性、芸術性が全面に出ており、テーマも退廃的なものが多い。入水自殺する美女オフィーリアなんて、美しいけど暗すぎるモチーフ。

1200px-sir_john_everett_millais_003ジョン・エヴァレット・ミレイ「オフィーリア」

beguiling_of_merlinバーン・ジョーンズ「アーサー王伝説:魔法にかけられるマーリン」

 morris_snakeshead_printed_textile_1876_v_2ウィリアム・モリスのテキスタイルデザイン

耽美主義にぴったりな現代の漫画家

ちょっと漫画方面にも足をのばしてみる。
私が勝手に敬愛する耽美的な漫画を描く2人を紹介。どっちも有名だけど。

楠本まき(漫画家)

ビアズリーに影響を受けたとご自身でも言っていた。線と空白の使い方が本当に綺麗でうまい。
独特の美しい世界観を描いている。

ほぼすべての作品を読んだけど、エッセイ的な作品、耽美生活百科はバイブル。

漫画作品では「恋愛譚」と「Kの葬列」が好き。ほの暗さと、ほんのちょっぴりの狂気と、美しさが合わさった本だ。

ロンドンに住んでいらっしゃるようで、「ロンドントレジャーハント」「ロンドンA to Z」などのロンドン紹介本もいくつか描いている。
電子書籍が出ていないのが本当に残念な限り。今度日本に行ったら持ってこなくては…。

萩尾望都

耽美好きとか関係なく、この人を知らない人はあまりいないだろう。
全部読んでるわけじゃないけど、やっぱりダントツで好きなのは「ポーの一族」ね!イギリス貴族のバンパイアの話。昔から我が家にあって、小さい時から何度も繰り返し読んだ漫画。

バラの花がここではキーワードになっていて、バラのリキュールとかスープに憧れたものだった。今でもローズのアロマが好き。

ポーの一族の影響で、「バラと紅茶」ってのが最初にできたイギリスのイメージだった。

最近、40年ぶりの新刊が出た。バンパイアの妖しく美しい世界はいまだ健在。

こんな風に、好きな作品がなんとなくイギリスとリンクしていることが多かったり、耽美主義の画家たちがたくさん生まれた風土・土壌が見たくてイギリスにきた。

天気も人の性格も、憂いを帯びていることが多いから、静けさとか、悲劇とか、暗さとか、そういったものに美を見出す国民性なんじゃないかと思う。

日本人と少し似ているかな。散る桜の花を綺麗だと感じるような。

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